護送船団方式と呼ばれる端末開発の今後|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開日: : 最終更新日:2014/09/04 モバイル研究家コラム, 木暮祐一のぶらり携帯散歩道 ,

 さる8月18日にソフトバンクが新製品発表会を実施し、シャープ製スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」の1モデル、2バリエーションを発表しました。また翌日の8月19日には、KDDIがHTC製スマートフォン「HTC J butterfly HTL23」を発表。多くのメディアでは、両端末のレビュー的な記事がたくさん掲載されていますが、少々視点を変えて、通信キャリアおよび端末メーカーのグローバル戦略という視点から、この両端末と、そこに関わった通信キャリアや端末メーカーの狙いを考えてみたいと思います。

シャープ「AQUOS CRYSTAL」(左)とHTC「HTC J butterfly HTL23」(右)

シャープ「AQUOS CRYSTAL」(左)とHTC「HTC J butterfly HTL23」(右)

米スプリントでも販売する「AQUOS CRYSTAL」

 ソフトバンクモバイルが発表した「AQUOS CRYSTAL」は、シャープの十八番ともいえるディスプレイ技術を活かし、「スーパーナローベゼル仕様」を特徴とし、これを”フレームレス構造”と呼んでアピールするなど、製品としても完成度の高い、魅力的な端末に仕上がっています。しかし、この製品の最大のトピックスは、ソフトバンクモバイルでの販売のほか、米国スプリント、およびスプリント網を利用したMVNOである米Virgin mobileと、米boost mobileで取り扱われるということ。ソフトバンクが米国第3位の通信キャリア「スプリント」を買収して子会社化しましたが、いよいよそのスケールメリットを活かした事業の第一歩を踏み出したということです。

 日米共通で端末を開発・調達することにより、そのスケールメリットを活かしたコストダウンを図ることが可能になってきます。

 端末メーカーが独自に製品を製造・販売し、好みの通信キャリアのSIMカードを組み合わせて利用するオープンな通信市場に対し、日本や米国は通信キャリアが独自に端末を調達して、キャリアを通じて回線契約とセットで端末を販売するほうが一般的でした。通信キャリアが端末の仕様を策定し、それを端末メーカーに発注して独自端末を商品化するというのがかつてのガラケー時代の端末製造スタイルでした。端末メーカーにとっては、通信キャリアからの受注により商品を提案、製造し、まとめて買い上げてもらえるため、販路も独自に築く必要が無く(1990年代中盤あたりはメーカーブランド端末や販路も存在はしていたのですが)、言ってみれば端末メーカーにとってとてもラクな形で端末の製造部分だけを担って(実際には修理対応などその他の業務も発生はしますが)業界に君臨してきたといえます。まさに通信キャリアと端末メーカーが一体となってモバイルサービスの進化を担ってきたわけです(護送船団方式などと呼ばれていました)。

 ところが従来のガラケーからスマートフォン中心の時代となり、端末プラットフォームもAndroidなどの主要OSで共通化され、さらに世界のメーカーも同様なスマートフォン端末を製造するような時代となり、日本における通信キャリアと端末メーカーの関係は穏やかではなくなってきました。日本国内という限られた市場でスマートフォン端末を調達し販売するには、さばける端末数にも限界があります。となると、有利になるのは海外の端末メーカーということになります。世界で販売しているスマートフォンであれば、製造数も多く、そのため1台あたりのコストを十分に引き下げることも可能です。一方で、日本国内市場のみで販売することを想定した国産メーカー製スマートフォンでは、どうしても販売数の関係で1台あたりのコストを下げることができません。通信キャリアが納得する納入価格に抑えるためには、必然的にコストダウンによる端末品質のクオリティ低下などにつながっていきます。結果的に海外製スマートフォンが人気を博し、一方で国産メーカーが衰退していくという構図になっていきました。

 そうした中で、ソフトバンクは米国の通信キャリアを子会社化した上で、今回両社で共通販売できる端末の開発を行ったことになります。しかも、日本メーカーのクオリティの高さを売りにした端末です。シャープはこの端末を日米で販売すると共に、海外(米国)でのユーザーからのフィードバックなども反映させ、再びグローバル展開できるスマートフォン端末を製造するメーカーとして活躍していくことになるかもしれません。他の日本メーカーにもぜひこれに続いてもらいたいと願うばかりです。

「HTC J butterfly」も今後世界で発売すると言うが…

 一方KDDIは、台湾HTC製スマートフォン「HTC J butterfly HTL23」を発表。HTCはスマートフォンメーカーの老舗で、Windows Mobileの時代から世界から高評価を得ていました。世界で初めてAndroid OSを搭載した「T-Mobile G1」もじつはHTC製というほど、スマートフォンメーカーとしては世界で知られていたメーカーなのでした。日本進出はかなり遅く、2006年にNTTドコモから法人向けのメーカーブランド端末としてWindows Mobile 5.0を搭載したフルキーボード付きスマートフォン「hTc Z」が発売開始。その後、ソフトバンクモバイルやKDDIからも多数の端末を発売するようになりました。

 このHTCとの関係をとくに重視している日本のキャリアがKDDIで、HTCと共に日本市場向けに独自商品を企画してきたものが「HTC J」と呼ばれるシリーズです。今回発表された「HTC J butterfly HTL23」はその最新モデルとなります。これはこれで素晴らしい端末で、個人的にもお気に入りのメーカーの1つではあります。

 KDDIは、こうした海外メーカーとのコラボレーションによって、KDDIの要望を多数盛り込んだオリジナル端末を多数開発しています。たとえば、韓国LGエレクトロニクスと共同開発した「isai」もそのひとつです。LGエレクトロニクス製の「G2」という世界で大ヒットしたスマートフォンをベースに日本ユーザーに求められるデザインや操作性、カラーリング、日本独自の機能を盛り込んだものがisaiでした。LGエレクトロニクスはKDDIに限らず、NTTドコモとも日本市場向けのオリジナル端末を多数製造してきました。

 海外メーカーがニッチな日本市場向けに熱心にスマートフォン端末を企画し、供給してくれることにはもちろん感謝しています。しかし、海外メーカーの本音はどうなのでしょう。数年前ですが、ある海外メーカーの関係者は、「日本市場は、参入するのは容易ではなかった。しかし、通信キャリアと強固な関係を築ければ、これほどラクな市場は無い」と言っていました。というのは、世界では販売する国ごとに、独自の販路や、ユーザーサポート体制を構築しなくてはならないわけですが、日本の場合はまとめて通信キャリアが買い上げてくれて、販売もサポートも基本的に通信キャリアが肩代わりしてくれます。「通信キャリアにまとめて買い上げてもらう」というハードルを越えられれば、あとは手が掛らないので「世界で一番ラクチンだ」ということになるのです。

 端末メーカーに対し、日本の通信キャリアの求める要件は大変厳しいと言われています。それだけ日本のユーザーは目が肥えていて、製品に対して高いクオリティを求めます。安定して動作することはもちろん、ワンセグやおサイフケータイなど日本独自機能の装備やその使い勝手、防水機能、さらに端末のカラーリングや質感まで、限られたコストの中で様々な注文が求められます。こうした厳しい条件に耐えられず撤退した海外メーカーもあれば、一方で必死に日本の通信キャリアを満足させるために努力したメーカーもあります。

 じつは海外のスマートフォンメーカーで、世界で成功しているメーカーの多くは、日本のこうした厳しい端末製造に匙を投げなかったところといえそうです。これもある海外メーカーの関係者が言っていた話ですが「防水機能や塗装技術など、日本のキャリアは非常に厳しい要件を突きつけてくるが、じつはこのノウハウは世界でも活かせる。日本向け端末で得たノウハウをグローバル端末に活かすことで、メーカーとしての評価も上がった」と。スマートフォン自体の開発ノウハウは世界市場を相手に学び、クオリティを高める部分のノウハウは日本で学ぶ、そんな状況になってしまっているのです。一方で、世界には販路もサポート体制も持っていなかった日本の端末メーカーは、もうこうした海外メーカーに太刀打ちできないことは目に見えていたことでした。NTTドコモやKDDIのスマートフォン端末調達の手段を否定はしませんが、昨今は海外メーカーと組むことが多く、それが日本の洗練されたモバイルユーザーが求める技術やクオリティの国外流出につながってしまっているのではないかなとも考えてしまいます。

 こうしたスマートフォン端末の商品企画および製造スタイルは各通信キャリア共通とも言えますが、製造コストの関係からどうしても海外メーカーに委ねる傾向が増えてきていた中で、ソフトバンクがあえてシャープという日本メーカーと組んで、日本メーカーが世界で活躍できる場を提供しようと目論んだ戦略(ソフトバンク関係者からは「新たな護送船団方式を成功させるんだ」という声が聞こえてきました)に舵を切ったことは大いに評価するに値するのではないかと、個人的に考えています。シャープに続けと、他の日本メーカーももう一度、世界を舞台に勝負を掛けてもらいたいと願っています。みなさんはどうお考えになりますか?

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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