田んぼを売り場に変える「rice-code」とは?│木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開日: : 木暮祐一のぶらり携帯散歩道

青森に移住してから県内の色々な観光スポットを巡ってきましたが、なかでも驚いたスポットの一つに青森県南津軽郡田舎館村の「田んぼアート」があります。田舎館村は津軽平野に位置する、人口8千人程度の小さな自治体です。稲作が産業の中心でしたが、近年の高齢化や過疎化に加え、日本人の食生活から米離れが進んでいることもあってその売り上げは年々減少。そこでこの村の特産品である「米」をアピールできる地域おこしの取り組みとして、1993年から田んぼをキャンパスに見立て、稲で絵を描く「田んぼアート」に取り組んできました。現在では各地で田んぼアートを見受けるようになりましたが、その元祖ともいえる存在です。葉色の異なる稲を使って、田んぼに壮大な絵を作ります。当初は3色の稲でスタートしたそうですが、年々技術が向上し今では7色の稲を使いこなし繊細で緻密なアートを作り上げています。

田舎館村の田んぼアートは村内に2カ所あり、どちらもビル4〜5階程度の高さから眺められる展望台があり、アート自体もその展望台から眺めて絵が正しく見えるように工夫して稲を生育させます。ともあれ、その規模やアートの緻密さは、実物を見ていただくしかありません。その作りこみと芸術性の高さから、海外メディアに取り上げられるほど話題を集めています。この田んぼアートを見ようと、人口わずか8千人の村に、毎年30万人以上の観光客がやってくるそうです。

これだけ多くの観光客が来場し、しかも展望台からの見学料として村役場には年間6千万円を超える入館料収入が入ってくるのですが、肝心な米の販売増にはつながっていませんでした。そこでARを使って田んぼアートから販売サイトへつなげてしまおうと考案されたのが「rice-code」です。このアプリを用いて田んぼアートをカメラで撮影すると、田舎館村産の米が購入できるという導線になっています。

先日、この「rice-code」のプロデュースを手がけられた、博報堂 ブランドイノベーションデザイン局シニアクリエイティブディレクター・鷹觜愛郎氏の講演を聞く機会がありました。鷹觜氏によると、成功するポイントは「強い入口、広がる窓口づくり」にあるそうです。21世紀に突入すると、広告において社会課題の解決が高く評価されています。社会課題の解決において欠かせなくなったのはインターネットです。インターネットが普及したことによって、現代は地域の枠を超えた情報発信ができるようになっています。そのため以前よりも1つの発信が大きなパワーを持つようになりました。さらにSNSも普及したことによって、情報のシェア・拡散ができ共感者や仲間を増やすことが手軽にできます。

この考え方、すなわち「強い入口、広がる窓口づくり」という観点から田舎館村の田んぼアートを見ていくと、すでに田んぼアートというコンテンツが「強い入口」としての役割を果たしていました。あとはどのようにして、「広がる窓口」をつくるのかです。より多くの人が情報をシェア(拡散)するとともに、課題となっている米の購買につなげていく方法を考える必要がありました。

こうした現状から鷹觜氏が導き出した答えが、田んぼアートを見学するその場を米の売り場に変えてしまおうというものでした。人間の心理として財布の紐が最も緩むのは、感動した瞬間にあるそうです。田んぼアートはピーク時になると見学するまでに1〜2時間の長蛇の列に並ばなくてはなりません。まだかまだかと待って、ようやく展望台の屋上に着いて目の前に見事に広がる田んぼアートを見た瞬間、来場者は感動と興奮の絶頂に達します。このタイミングこそ財布の紐が緩む瞬間。しかも来場者の誰もがスマホでその素晴らしいアートを撮影しています。であれば「rice-code」を用いて撮影してもらえば、同時にお土産として米を自宅に届けることができます。

観光客の興奮時に、その興奮を購買へとつなげるという事例は今後ほかにも応用できそうですね。

rice-code Webサイトより

rice-code Webサイトより

参考情報

rice-code
http://nature-barcode.jp/award/japanese/index.html

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー
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