中国で広がる無人コンビニ、目指すは「スマホレス」ペイメント|山根康宏のワールドモバイルレポート

公開日: : 最終更新日:2018/08/28 山根康宏のワールドモバイルレポート

中国のIT系展示会で最近増えている展示物がある。ガラスのショーケース型冷蔵庫で、中には食品や飲料物が並び来場者がスマートフォン片手にドアを開け閉めしているのである。これらは無人店舗や無人コンビニ用の什器なのだ。中国では2017年ころから急激に無人店舗が増えており、2018年に入るとその動きが加速している。繁華街で何かの販売店が撤退したと思ったら、その翌週にはQRコードが貼り付けられたショーケースが並ぶ無人コンビニ化していた、なんて光景もよく目にする。

無人店舗と言えば真っ先に思い浮かぶのが自動販売機。日本ではいまさら自動販売機のことを無人販売機械とは誰も思い浮かべないほど、当たり前のものになっている。高速道路のサービスエリアに行けば飲料物の自動販売機が十数台も並んでいる様は外国人にとって壮観だが、日本人にとってはそれすら日常の光景の延長にすぎない。

中国にも自動販売機はあるが、日本ほどその数は多くはない。町中となればジュース1本を買うにしても、自動販売機を探すよりもコンビニや地元の零細商店など、人のいる店舗で買うことが一般的だ。ところがここ1年ほどで無人のお店、無人コンビニが増えている。設置当初は実験的なもので、中国の消費者も新しいもの見たさに使ってみるケースが多かったが、最近ではスマートフォン片手にセルフサービスで商品を購入する人の姿もよく見かけるようになっている。

中国の都市部に増えてきた無人コンビニ

中国の都市部に増えてきた無人コンビニ

中国のコンビニでは日本同様、様々なものが販売されている。それに対して無人コンビニはまだまだ販売する製品の数は限られているのが実情だ。これは店内の商品の棚への補充を行う店員がおらず、定期的に巡回してくる配送車に頼らざるを得ないことから仕方ないことだろうか。それでも果物やお菓子など、自動販売機では売りにくい生鮮食品や大型商品が販売されているため、利用客にはメリットは大きい。

無人コンビニのシステムは様々で、自由に店内に出入りでき、ショーケースから商品を取り出すときにQRコードを読み取るもの。あるいは店の入り口にロックがかかっており自分のスマートフォンで鍵を開け、あとは出るときに自動会計されるものなどが代表的。日本の自動販売機のように無人化して人件費を浮かす目的があるだけではなく、支払いはすべてモバイルペイメントにすることで現金のやりとりをなくしている。

出入り自由、中に無人ショーケースのあるタイプは設置が簡単

出入り自由、中に無人ショーケースのあるタイプは設置が簡単

実は中国で無人コンビニが普及した背景にはモバイルペイメントの普及が大きく関係している。中国のモバイルペイメントの普及については以前「中国・深センに見るスマホを使ったキャッシュレス社会の現状」としてこちらで書いた通りで、10円単位の小銭ですらスマートフォンを使った決済が当たり前のものになっている。買い物に現金を使わないことが当たり前になったことで、無人コンビニも当たり前のように受け入れられているのである。

無人コンビニを使ったレポートはすでにネット上に多数見ることができる。現状では既存のコンビニを完全に置き換えるほどのものにはなっていないが、大きなトラブルもないようだ。提供する側も使う側もまだテストサービスと考えているからだろうが、無人であることを逆手にとって不正を働いたり、商品が購入できないのに課金だけされる、といった問題は表立っては現れていない。

筆者が中国国内を飛行機で移動したとき、北京では搭乗口のすぐそばに無人カラオケが設置されていた。中国では1人用の個室カラオケが屋外にあり、ちょっとした空き時間にカラオケを楽しむことができる。これもモバイルペイメントに対応しており、現金不要で設置・利用できるのだ。飛行機が遅延したときなど、ベンチでスマートフォンをいじるのもいいが、歌を歌ってストレス発散するのも悪くない。無人コンビニの普及を前にして、中国ではすでに無人カラオケBOXがあちこちで見られるのである。

中国ではメジャーな無人カラオケ。空港への設置例もある

中国ではメジャーな無人カラオケ。空港への設置例もある

空港内には多くの売店があるものの、早朝や深夜は閉店していることもある。また自動販売機もあるが売られているものは飲料程度だ。無人コンビ二を空港内に設置すれば、サンドイッチなどの軽食やお菓子、さらには書籍や紙おむつなど、自動販売機で売りにくいものも販売できる。無人コンビニの設置場所は町中だけではなく、駅や空港など24時間人が集まる場所にも有用だ。集客効果も高く、人件費や人材確保の必要もないことから、大きなビジネスになる可能性を秘めている。

では中国のIT系展示会ではどのような無人店舗向けソリューションが展示されているのだろうか。2018年6月に上海で開催されたCES ASIA2018では家電メーカーやECサービス企業がこぞって無人店舗向け什器を展示していた。その中の1つ、もともとは家電量販店で今はECに注力しているSuningは、QRコード支払い対応のガラスショーケース型冷蔵庫を展示していた。

EC大手Suningの無人店舗

EC大手Suningの無人店舗

利用方法は簡単で、Suningの買い物アプリをスマートフォンにインストールしモバイルペイメントを紐づけておく。ショーケースのQRコードをアプリで読み取るとドアが開くので、希望の商品を1つ、あるいは複数取り出す。中に入った飲料はそれぞれRFIDにより取り出したものがどの商品なのかを自動的に検出してくれる。そしてドアを閉めれば自動的に清算され、モバイルペイメントですぐに支払いが行われるのだ。ICカードやスマートフォンのNFCを使ってタッチする、なんて操作もいらない。QRコードでドア開閉と清算まですべてが済むのだ。

Suningのこの無人ショーケースは顔認識にも対応している。アプリを使って自分の顔を登録しておけば、ショーケースの前に立って内蔵カメラに顔を向けるだけで本人認証が行われ、ドアが開くのだ。商品取り出し後はドアを閉めれば同様にモバイルペイメントアカウントから購入金額が引き落とされる。まだ顔認証はテスト段階で一部の都市でしか利用されていないとのことだが、正式な商用化も目前だ。スマートフォンの顔認証精度がここ1~2年で急激に性能が上がったことを考えると、無人店舗で顔認証を使う技術が問題ないレベルに到達していてもおかしくない。

顔認証を済ませばスマートフォンなしで買い物できる

顔認証を済ませばスマートフォンなしで買い物できる

このように今、中国の無人店舗はスマートフォンを使ったモバイル決済から、生体認証を使ったスマートフォンレス決済、すなわちスマホすら持たずに「手ぶらで買い物」までも実現しようとしているのだ。スマートフォン片手であらゆることができる社会は、それはそれで便利だろう。しかしスマートフォンを紛失してしまったり、不正利用されてしまう恐れもある。それに対し生体認証であればセキュリティーは高く、紛失してしまうこともない。

顔以外の生体認証では、Deepblueが手のひらの静脈認証による無人店舗を上海などで展開中だ。展示会でもDeepblueブースには実店舗と同じ什器が設置され、手のひらをかざしての生体認証ショッピングが体験できる。静脈認証は日本でも富士通などが開発しており、2004年には東京三菱銀行(当時)がキャッシュカードに代わる認証方法として採用している。しかしそれから10年以上たっても、日本では生体認証を使った無人店舗は登場していない。日本ではおサイフケータイの普及が早かったために、Felicaを使ったモバイルペイメントが世界に先駆けて先行。キャッシュレス化を目指して各社が競争と技術革新を行ってきた。

Deepblueのショーケースは静脈認証で買い物ができる

Deepblueのショーケースは静脈認証で買い物ができる

中国ではモバイルペイメントによるキャッシュレス化の普及は他国よりも遅れたが、普及の速度は世界一早いと思えるほど急速だ。しかしQRコードを使うモバイルペイメントはアプリを起動してQRコードを読み取る必要があるし、QRコードのセキュリティーも万全ではない。町中にあるシェア自転車のQRコードに偽装したコードを張り付け小銭を盗む犯罪者もいる(なおモバイルペイメント側で個人認証をしているので犯人が簡単に逃げ切れるとは考えにくいのだが)。

Deepblueは本人認証を静脈で行ったうえで、ショーケース内に取り付けたカメラが商品を写したうえでAI機能を働かせ、購入者がピックアップした商品を判別する。この方法もなかなか面白い取り組みだ。同社は商品の乗ったトレイを重量検知器とし、商品を取った時点で重さの変化を検知し商品を認識するシステムもテスト中だ。どちらの方法もRFIDのラベルを商品に貼り付ける必要もなく、店舗側としては商品を置くだけと簡単だ。

同じ仕組みでカメラを使った無人レジもテスト中

同じ仕組みでカメラを使った無人レジもテスト中

生体認証を使ったソリューションはアリババの実証テストも進んでいる。アリババの本拠地でもある杭州市などではファーストフード店の注文・決済端末に顔認証機能が組み込まれている。店舗のスタッフの話では若い来客の多くが顔認証による手ぶら注文を実際に使っているとのこと。杭州市はアリババの主体による無人コンビニや無人レストラン、ドローンによるスターバックスの無人配送など様々なテストも行われている。気が付けばそれらの無人化と、顔認証のシステムが同時に商用化されるかもしれない。

スマートフォンすら不要としてしまう中国のキャッシュレス化への動きは、これから先進国よりもインドやアフリカ、東南アジアなど新興国へ広がっていくかもしれない。先進国ではいつまでたってもスマートフォンをタッチして買い物をしているのに、アフリカでは顔を見せるだけでジュースが買える、なんて時代が近いうちにやってくるかもしれないのだ。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー
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