音声認識技術で存在感を表すアマゾン|山根康宏のワールドモバイルレポート

今年も1月3日からラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)は、今年のIT業界のトレンドが一堂に集まるイベントだ。2016年からは主催団体の名称がそれまでのConsumer Electronics Association (CEA)からConsumer Technology Association (CTA)へと変わり、テクノロジー関連を強化したイベントに様変わりしている。

2017年のCESではAR/VRやAI、また自動車関連の出展が目立つものとみられていた。だが蓋を開けてみればこれらの技術よりも目立つものがあった。それは音声認識系の製品だ。音声認識と聞くと、AppleやGoogle、Microsoftといったパソコンやスマートフォン上で動くものを思い浮かべる人が多いだろう。しかしCES2017の主役はこれらの企業では無かった。音声認識技術で注目をさらったのはAmazonだったのである。

CES2017の会場内で最も目立っていたのがAmazon Alexaだ

CES2017の会場内で最も目立っていたのがAmazon Alexaだ

CES2017の会場内にはAmazonの音声認識技術であるAlexa(アレクサ)に対応した製品があちこちに展示されていた。それは家電に留まらず、小さいものならばウェアラブルデバイス、大きいものであれば自動車など、その数は数百を超えていたほどである。新製品の発表会で「音声でコントロールが出来る」と説明があれば、その次に出てくる言葉は「Alexa」。IoT製品をコントロールするのはスマートフォンアプリではなく、直接話しかけることがトレンドになろうとしているのだ。

Alexaは当初、Amazonが発売したスピーカー型のデバイス「Amazon Echo」に搭載された。このEchoだけが対応デバイスであれば、Alexaの利用が他社の製品に広がることは無かっただろう。だがAmazonはAlexaのSDKを開放し、他のハードウェアメーカーでもAlexaの音声認識エンジンを使えるようにした。そしてサードパーティーを含む様々な企業からAlexa対応のプログラムである「スキル」が登場し、「アマゾンで注文する」以外のことが、Alexaで出来るようになったのだ。

例えばAlexaに対応したFordの自動車を持っていれば、自宅の部屋の中からAmazon Echoに話しかけてエンジンをかけることができる。乗車中は近所のコーヒーショップの検索と道順を表示してもらったり、自宅の電気を消す、といったことも音声で指示できる。いちいちスマートフォンを取り出してアプリをタップしたり、あるいはスマートフォンに話しかける必要も無いのだ。

Fordのコネクテッドカーソリューション、Sync 3とAlexaが連携。車をAlexaでコントロールできる

Fordのコネクテッドカーソリューション、Sync 3とAlexaが連携。車をAlexaでコントロールできる

ここ数年で莫大な量のIoT製品が市場に登場したが、それらをコントロールするためにはスマートフォンにアプリを入れなくてはならない。しかし利用するIoT機器の数だけアプリも必要となる。家の中のスマート家電ならば、同じメーカーの製品であれば1つのアプリでコントロールが可能だろう。しかし現実は、家の中の全ての家電を同じメーカーで揃えることは不可能だ。またウェアラブルデバイスなど様々な機器が増えれば、さらに必要なアプリは増えていく。

つまり家や人間の「スマート化」が進めば進むほど、スマートフォンの中身はアプリだらけと言う、スマートとは言えない状況になっていくのだ。もちろんAppleはHomeKitを拡張するだろうし、GoogleはGoogle HomeでAmazonを追いかける。両者ともに音声認識の重要性は十分認識しているところだろう。だがAlexaはすでに使える製品が多数登場しており、「遠い未来」ではなく「今、すぐに買って使える」技術なのである。

スマートウォッチもAlexa対応。AppleやGoogleの音声認識を使わない製品が登場

スマートウォッチもAlexa対応。AppleやGoogleの音声認識を使わない製品が登場

Alexaを使ってみると、スマートフォンのアプリを使うことがいかに面倒なのかを体感できる。リビングルームの明かりをつけるとき、Alexaならば「あかりをつけて」と話しかけるだけでよい。それに対してスマートフォンの場合は、ロックを解除してアプリを起動し、画面をタップしなくてはならない。アプリが多数入っていれば、そのアプリを探す時点で大変だ。Alexaの簡単操作に慣れてしまうと、スマートフォンアプリを使うのが億劫になっていくだろう。しかもスマートフォンアプリは概して高性能だ。ボタン一つタップする前に、設定項目が多数必要なものも多い。

もちろんAppleなどもAmazonの動きへ対抗していくだろう。だが2017年になり、時代は「Amazon Alexa対応でスマートフォンいらず」という流れに急速に向かっている。このままいけばAlexaが音声認識のデファクトスタンダードとなり、他のメーカーも「まずはAlexaに対応」という動きに出るだろう。CES2017ではApple HomeKitにのみ対応していたスマートホーム関連製品を出しているiDevicesが、Google Homeへの対応を大々的にアピールしていた。Google Homeが発表されたのは昨年10月。しかしその動きですら遅すぎるように感じられるほど、Alexaが急激に台頭しはじめているのだ。iDevicesもいずれAlexaへ対応するのではないだろうか。

iOSだけの対応では市場の動きについていけない。だがAlexaへの対応も急務になりそうだ

iOSだけの対応では市場の動きについていけない。だがAlexaへの対応も急務になりそうだ

このままAlexa対応製品が増えていけば、IoTデバイスを「アプリではなく音声で動かす」時代があっという間にやってくるかもしれない。現時点ではAlexaの対応言語は英語とドイツ語だけだが、いずれ西洋言語、そして東洋言語へも対応するだろう。そうなるとAmazonがApple、Googleに取って代わって誰もが日常的に使うサービスになるかもしれない。

中国では中国版Amazonとも言えるJD.com(京東)がAmazon Echo類似の製品を出しており、家電との連携も強化。Amazonへの対抗姿勢を見せている。では日本ではどんな動きがおきるのか?このままAmazon、JD.comに飲み込まれることなく、日本ならではの音声認識サービスが登場することを期待したい。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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