仙台市田子西地区でのIoTによる行動変容の取り組み|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開日: : 最終更新日:2017/02/10 モバイル研究家コラム, 木暮祐一のぶらり携帯散歩道

さる11月中旬、東京都内で「IoTのスマートハウス、スマートシティへの展開 ~居住空間から地域社会に至る、IoTによる環境見守りの事例を探る~」という講演会が開催され、その内容を取材してきました。主催は一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)。こちらの連載では、3回に分けてその内容をレポートします。2回目は、仙台市田子西地区における行動ログアプリを用いた行動変容による健康増進の取り組みです。

スマートシティを目指す田子西地区

 仙台市郊外の田子西地区は、現在開発が進行中のニュータウンです。仙台駅の北東約7kmに位置する16.3haのエリアで、元々は田んぼが続いていたエリアだったのですが、2005年以降区画整理が行われ、その土地を改良して新しい街を作ってきました。当初計画では商業地が中心になる予定でしたが、この改良の途中で東日本大震災が発生し、住宅を失った人たちが住む街として復興公営住宅を誘致することになり、住宅を中心とした街づくりに計画変更され、現在「グリーン・コミュニティ田子西」として1500~1600人の人たちが生活しています。

「グリーン・コミュニティ田子西」のロケーション

「グリーン・コミュニティ田子西」のロケーション

開発前と現在の空撮写真

開発前と現在の空撮写真

震災後、当初計画を大きく変更し住宅街へ変貌

震災後、当初計画を大きく変更し住宅街へ変貌

 この街づくりに関わったのが国際航業株式会社です。国際航業はもともと航空旅客営業などやっていた会社なのですが、第二次大戦後は航空写真測量に事業をシフトし、その後日本の地図を作ってきた会社として知られています。現在では人工衛星や航空機、ドローン、様々なセンサーなどを駆使した計測サービスや、それに基づいたインフラの設計デザインまで手掛けているそうです。そうした事業を展開してきた中で、新規事業としてロボットやIoT、センサーを使った街づくりや健康づくりの開発も行うようになりました。ここで紹介する「グリーン・コミュニティ田子西」も国際航業が開発に関わっています。

 国際航業株式会社 新規事業開発部 新規ビジネスグループ長・藤原康史氏によれば、この田子西は「地球温暖化」「超高齢化社会」「地域活性化」という3つの社会課題を解決することをコンセプトに街づくりを目指しましたと説明します。

国際航業株式会社 新規事業開発部 新規ビジネスグループ長・藤原康史氏

国際航業株式会社 新規事業開発部 新規ビジネスグループ長・藤原康史氏

3つの社会課題を解決することをコンセプトに街づくりを目指しています

3つの社会課題を解決することをコンセプトに街づくりを目指しています

 その3つのコンセプトの中で「超高齢化社会」への対応の一環として、高齢者を集めて運動教室をしたり地域イベントを実施したりするなど、様々なコミュニティ形成の手助けをしています。そしてスマートシティの実現を考える上で、じつはこうしたアナログなコミュニティをしっかり作らなければ、その先はうまくいかないと論じます。

 東日本大震災で明らかになったことは、インフラ(地域形成)によってコミュニティが守られていたとしても、想像できなかったような災害でインフラがダメージを受けてしまったことでコミュニティが弱体化し、人々が散ってしまったことでした。国際航業では、インフラももちろんですが、コミュニティ(人と人の連携)を強固なものにしておけば、仮にインフラがダメージを受けたとしても復旧までのダメージを最小化でき、人と人が連携を続けながら活力を維持したまま復興できるとしています。このイメージを「生卵」と「ゆで卵」の図を使って説明しました。

目指すべき街づくりのイメージとして「卵」で説明

目指すべき街づくりのイメージとして「卵」で説明

健康増進にIoTとスマホを活用し行動変容を促す

 こうして形成しつつある地域コミュニティの協力を得て、健康増進に向けたスマホを活用した実証実験を展開しました。スマホを使うことで健康増進に向けた行動変容が可能かどうかという実証実験です。実験には、レイ・フロンティア株式会社が参画し、同社のライフログアプリ「SilentLog」を活用して行われました。

 この「SilentLog」ですが、現在1日20,000人に利用されているライフログアプリで、アプリを起動して持ち歩くだけで移動手段、距離、時間、歩数、滞在場所を自動で記録してくれるものです。カメラで写真撮影すれば、その行動履歴上に画像がマッピングされていきます。平均利用者層は30代男性が中心だそうですが、20代よりも40~50代の利用が多いとのこと。もう一つの特徴が30日の利用継続率で、このアプリではおよそ5割ぐらいが30日以上継続利用しており、一般的なアプリに比べ利用継続率が高いものとなっているそうです。参考までに一般的なソーシャルゲームで30日継続利用率は3%ぐらいとのこと。

 そして、講演に登壇したレイ・フロンティア株式会社 取締役 CCO・澤田典宏氏は、このアプリで得られるデータをもとに行動分析することに意義があると説明します。行動分析データの事例では、たとえば東京・神保町周辺のユーザーの行動情報では、黄色い点は徒歩によるユーザーの行動、青は乗り物によるユーザーの移動として示されています。これは2016年11月12日における、計435名分のデータをプロットしたものです。黒い点は一定時間以上そこに滞在したケースです。

田子西で実証実験に使われた「SilentLog」について説明するレイ・フロンティア株式会社・澤田典宏氏 width=

田子西で実証実験に使われた「SilentLog」について説明するレイ・フロンティア株式会社・澤田典宏氏

神保町におけるユーザーの行動。右下はこのデータ上に表示されている435名がどこから来たのか。北は仙台、西は福岡から来たことが分かります

神保町におけるユーザーの行動。右下はこのデータ上に表示されている435名がどこから来たのか。北は仙台、西は福岡から来たことが分かります

 これまで地域社会の課題解決包括策として長年にわたってGIS(地図情報)が用いられてきました。たとえば、高齢者の世帯情報を見るという場合、かつて1990年以前は役所などに行って住民台帳や紙の地図といったデータを参照していました(点の情報)。これがデジタル化していくと、地図情報を重ねることで視覚的に情報の閲覧性が高まっていきました(点に加え面の情報が付加)。そして近年は点と面の情報に加え線の情報を加えることでさらに色々なことが見えてくるようになりました。この「線」に該当するのが行動情報といえます。

地域の解決包括策としてGISは長らく用いられてきましたが今後はこれに線(時系列行動情報)を付加することが可能になりました

地域の解決包括策としてGISは長らく用いられてきましたが今後はこれに線(時系列行動情報)を付加することが可能になりました

 では、いよいよ高齢者の行動が「行動情報」で変わるのかという実証実験です。田子西地区のコミュニティの協力を得て、2016年4月9日からの2カ月間と2016年8月の1カ月の計3カ月間で実証実験を行い、データを分析ました。

 澤田氏いわく、本当にユーザーの行動変容が可能なのかという点には、じつは目算があったと言います。これまでのSilentLogユーザーデータで65歳以上の利用者動態を見ると、平均継続率では3カ月継続が約41.9%、6カ月継続が約22.7%とまずますでした。そして1日あたりの平均歩数は2766歩/日、導入3カ月後歩数増加率は+169.5%という結果が得られていました。

 しかし田子西で実証実験に導入したところ、もともと導入時には意識が高かったはずなのに完遂率が40%にとどまってしまいました。これは想定外のトラブルも少なくなく、何より高齢化が進んでいた田子西住民の方々の多くはスマホを使いこなせていなかったという問題がありました。そこで澤田氏は、使い方はともあれ「充電して電源を入れて常に持っているだけで良い」というお願いをし、実証実験に入りました。それでも、なぜかアプリが落ちていたり、あるいは電源が入っていなかったというユーザーが多発したそうです。ユーザー本人はそうした自覚はなくて「ちゃんと充電して持ち歩いていた」というような回答が多かったのですが、現実として現地に足を運んでみるとアプリが落ちていたり電源が落ちていたりしたまま持ち歩いている人たちも多かったそうです。

 重要なことは、粘り強く説明に訪問したことだったといいます。そのようにしてフォローすることで、完遂率が高まる成果を出せました。もちろん地元自治体との協力や地域コミュニティとの密なお付き合いも必要ですが、何よりマメなフォローも重要と感じられたそうです。結果的に、完遂率は40%でしたが、この40%の人たちの継続率は94%となり、そのうち60%が歩数増につながりました。スマホを必ずしも使いこなせていなくても、「意識させるだけでも行動は誘発される」ということが分かりました。

「『毎日歩数を見直してください』『できたら記録をつけてください』、それぐらいの意識をさせたかったのですが、とにかくも『1日1回スマホを取り出して画面を見てください』だけをお願いした結果、皆さんがご自身の活動量や行動内容に興味を持つようになり、それが継続につながったようです。記録を見ていると、前日よりも歩数が少ないと「何となく」でも少し多めに歩こうという意識が芽生えます。これが結果的に歩数が増えていくということが分かりました」(澤田氏)

実証実験の結果、ライフログアプリで着実に歩数は増加、行動誘発につなげられているようです

実証実験の結果、ライフログアプリで着実に歩数は増加、行動誘発につなげられているようです

今後の取り組み予定

今後の取り組み予定

 今後、国際航業とレイ・フロンティアでは、参加された皆さんの行動先の分析やユーザーインタビューによって外出動機や目的を明らかにしていくそうです。さらにデータを機械学習させることで行動誘発につなげていく工夫をしていきます。すなわち、今回は歩数を知ることで歩くきっかけを作ったわけですが、さらにどのようなインセンティブを与えればより行動誘発できるかを探っていくそうです。

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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