犯罪捜査、まずはスマホから|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

今春、米国でAppleとFBIがiPhoneのロック解除をめぐって訴訟に発展した話題はご記憶にあるでしょうか。FBIが銃乱射テロ事件の捜査を目的として、iPhoneのロックを解除をAppleに求めた際、Appleが「顧客のプライバシーのため」と断固拒否したというこの話題。その後FBIはAppleに頼らずロック解除をあっさりと行ってしまいました。この時にロック解除に協力したのが日本企業の子会社だったのです。じつは犯罪捜査用に提供されている専用ツールが世の中に存在するのですが、今回はそのツールを実際に体験してきました。

スマホ内のデータを簡単に読み出してしまう!

 世界で話題になったAppleとFBIの顛末ですが、あっさりとiPhoneのロックを解除してしまったのは、イスラエルのCellebrite社と言われています。このCellebriteは2007年に日本の企業であるサン電子(本社:愛知県)が株式を取得し子会社化しました。じつは筆者は、2007年当時にこのサン電子にてCellebrite製の犯罪捜査用ツールを取材させていただいたことがあったのですが、このほどCellebriteから最新のツールが販売開始され出荷が始まったと聞きましたので、さっそくその製品をレビューしてきました。

 Cellebriteは「携帯電話買い替え時のデータ移行サービス」や「データのバックアップと復元」などのソフトウェアやサービスを提供してきた企業ですが、同時に「犯罪捜査用システム」の提供でも知られていました。犯罪捜査用のサービス製品は「UFED」(ユーフェドと発音されてました)と名付けられ、ツールなどのハードウェアからソリューション、分析などのサービスまでラインアップしています。

 今回見せていただいたツールは、スマートフォンや携帯電話端末から端末内データを吸い上げる機器で、UFED Touchと名付けられたものです。このほど最新版の「Touch2」がリリースされ、日本国内向けに出荷も始まったということで、実際に製品に触れさせていただく機会をいただきました。ちなみに、このUFEDシリーズはあくまでも犯罪捜査関係者向けのものであり、一般の企業や消費者が購入することはできません。筆者も何度か購入の交渉をしたことがありましたが、入手には至りませんでした。今回も、一般に公表されている機能の紹介のみという条件付きで、記事執筆の許可をいただきました。

 ではさっそく、このUFED Touch2で何ができるかは実際の端末をみながら説明していきましょう。

Cellebrite UFED Touch2 外観。卓上型タブレットという感じでしょうか

Cellebrite UFED Touch2 外観。卓上型タブレットという感じでしょうか

犯罪捜査システムというので難しいものを想像していましたが、メニューはいたってシンプル。データの抽出元となるデバイスの種類を選択します

犯罪捜査システムというので難しいものを想像していましたが、メニューはいたってシンプル。データの抽出元となるデバイスの種類を選択します

「携帯デバイス」を選択するとキャリアや端末メーカーが一覧で表示されます

「携帯デバイス」を選択するとキャリアや端末メーカーが一覧で表示されます

たとえば「NTT Docomo」を選択するとお馴染みの端末名がずらり。もちろん機種名から検索をかけることもできます

たとえば「NTT Docomo」を選択するとお馴染みの端末名がずらり。もちろん機種名から検索をかけることもできます

ちなみに、Apple(リンゴマーク)をタップするとApple製品がずらりと並ぶわけですが…

ちなみに、Apple(リンゴマーク)をタップするとApple製品がずらりと並ぶわけですが…

Appleの2階層目まで行ったら、フェイクiPhoneまで選択できるようになっていました(笑) 中華圏ではiPhoneのフェイク品は多数見かけますからね

Appleの2階層目まで行ったら、フェイクiPhoneまで選択できるようになっていました(笑) 中華圏ではiPhoneのフェイク品は多数見かけますからね

では、試しに筆者のiPhoneからデータを抽出してみましょう。画面の指示に従ってケーブルで接続します

では、試しに筆者のiPhoneからデータを抽出してみましょう。画面の指示に従ってケーブルで接続します

端末をつなぐ以外に、たとえばSIMカードからデータを読み出すといったことも可能です(日本ではSIMカードにあまり情報を書き込みませんが)

端末をつなぐ以外に、たとえばSIMカードからデータを読み出すといったことも可能です(日本ではSIMカードにあまり情報を書き込みませんが)

iPhone内のどのデータを抽出したいかを選択します

iPhone内のどのデータを抽出したいかを選択します

開始をタップするとUFED Touch2にデータが取り込まれていきます。そのデータはUSBメモリやSDカードに保存することができます

開始をタップするとUFED Touch2にデータが取り込まれていきます。そのデータはUSBメモリやSDカードに保存することができます

 Cellebrite UFED Touch2 での操作は以上なのですが、スマートフォンから抽出したデータはUSBメモリやSDカード等に書き込まれます。あとはその内容をパソコン等で確認するだけ。ちなみに抽出データを報告書用にレポーティングするフォーマットなども整っていました。抽出結果は捜査関係者用の内容も含まれるので、ここでは残念ながらお見せできません(どうせ私のiPhoneではありますが)。操作は極めて簡単でした。ただし筆者のiPhoneにはアドレス帳登録件数が数千件入ってたため、データ抽出に相当な時間がかかりました。

もしかしてアドレス帳編集ソフトと同じ? いえいえ!

 かつて携帯電話全盛期には、アドレス帳編集ソフトというものが多数発売されていまして、携帯電話の買換え時などに端末内データを移すのに大変重宝していました。スマートフォンの時代になり、スマートフォンのデータもパソコン並みに自在に扱えるようになったため、アドレス帳編集ソフトは姿を消していったのですが、よくよく考えてみるとCellebrite UFED Touch2 はアドレス帳編集ソフトの高機能版といった感じではありませんか?!

 じつは、今回紹介した機能はこの部分まで。確かにアドレス帳編集ソフトでも可能な機能の部分までです。Cellebrite UFED Touch2 では、以上で紹介した機能を「ロジカル抽出」と呼んでいました。つまり、スマートフォン内にファイルデータとして保存されているものを抽出してくる機能のことですね。じつは、このほかに「フィジカル抽出」という機能およびサービスも用意されています。これは、端末内の記憶領域をそのまま抽出して再現するものです。たとえばこの「フィジカル抽出」を行えば、端末上で消去したデータやファイルの復活などもできるのです。なお、フィジカル抽出には解析なども専用のアプリケーションを使用する必要があり、より高度な技術も求められるため、一般にはその様子は公開していないということでした。

Cellebrite UFED Touch2 のキャリングケースはさながらスパイツール?! 世界中の携帯電話用の接続ケーブルがぎっしり詰まっています(写真は一部)

Cellebrite UFED Touch2 のキャリングケースはさながらスパイツール?! 世界中の携帯電話用の接続ケーブルがぎっしり詰まっています(写真は一部)

こちらはキットに含まれるフェイクSIMカード。使い方は…、ご想像ください

こちらはキットに含まれるフェイクSIMカード。使い方は…、ご想像ください

 この「UFED」シリーズですが、価格は数十万円から、ソリューションも含めると数百万円まで。購入できるのは、捜査関係機関のみということでした。そんな高価なもの、地方の警察などでは買えないでしょう、なんて思ったら大間違い。都道府県警察という単位ではなく、もはやほぼすべての「警察署」に配備が進んでいるそうです。とくに大都市圏の警察署では相当利用頻度も高いので数台配備というところもあるとか…(驚)

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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