iPhone割引販売の無くなったアメリカで伸びるSIMフリースマホ、日本はどうなる?|山根康宏のワールドモバイルレポート

公開日: : 最終更新日:2016/10/13 山根康宏のワールドモバイルレポート ,

日本でもSIMフリーのスマートフォンが多数増えている。参入メーカーもHuaweiやZTEなど以前は大手通信事業者から製品を販売していたメーカーだけではなく、ASUSなどPCメーカーからの参入、さらにはフリーテルやマウスコンピューターのように日本の非・大手メーカーも続々と製品を出している。この動きはすでに東南アジアやアフリカなど新興国では顕著で、多くの国で地場の中小メーカーが次々と生まれている。そしてその動きは日本などの先進国にも広がりつつある。

iPhoneの割引廃止でSIMフリースマートフォンの注目が高まるアメリカ

なかでもiPhoneのシェアが高く、通信事業者と2年縛りでiPhoneを格安で購入することができたアメリカで、中小の新興メーカーのスマートフォンが着々とシェアを伸ばしている。アメリカ(北米)のスマートフォンの販売は基本的には通信事業者経由であり、SIMロックがかかっている。スマートフォンの販売方法は日本同様に事業者の店舗経由が多く、家電量販店でも事業者ごとに取り扱う端末が異なる姿は日本に似ている。

しかし今では通信事業者による端末の割引が次々と廃止され、iPhoneを格安で買える時代は終焉を迎えた。先鞭をつけたのはT-Mobildeで、2013年に「Uncarrier」すなわち従来のキャリアからの脱皮宣言を行い、2年間の固定契約プランを廃止した。それと同時に端末の過剰な割引も廃止。その代りiPhoneなど高価な端末は2年間の無利子分割払いを提供した。これによりユーザーはいつでも好きな時にT-Mobileとの契約を違約金無しで解除でき、また毎月の支払額は「基本料金+iPhoneの分割代金」と明確になった。

2年契約撤廃、iPhoneの割引販売終了をいち早く打ち出したT-Mobile

2年契約撤廃、iPhoneの割引販売終了をいち早く打ち出したT-Mobile

もちろん従来のように2年間T-Mobileを使い続けるユーザーにとっては、iPhoneの割引が無くなるのは大きな痛手だ。しかしすべてのユーザーがiPhoneを割引で購入したいわけではなく、低価格なスマートフォンをリーズナブルな料金で使いたい顧客もいる。iPhoneを売ることを第一に考えた基本料金や契約縛りは、結果として毎月の支払額を引き上げてしまっていたのだ。

T-MobileのUncarrier政策は消費者に受け入れられ、シェア3位争いをしていたSprintとの顧客争いで優位に立った。シェア1位と2位のVerizon、AT&Tを脅かす存在までには至らなかったものの、料金の明確化を求めるユーザーの声は高まり、最終的にはアメリカの4キャリア全社が2016年1月をもってiPhoneの割引販売を取りやめた。日本から見るとこれはデメリットに見えるだろうが、いつでも契約を停止できるプランは逆に大きなメリットだ。また過去機種からのアップグレード、すなわち買い取りを強化しており、iPhone 6などからの買い替え時には比較的高い価格で買い取りをしてもらえる。

iPhoneの割引廃止により通信事業者は今まで顧客に支払っていた分を研究開発やインフラ投資など、本業に回すことができる。しかも5Gの商用化を見据えた今、通信事業者が行うべきことは加入者を増やすことではなく、5Gに向けての先行投資だろう。

AT&TのiPhone販売ページ。定価で買うか、定価を30回払いで買うか、の2つのオプションのみだ

AT&TのiPhone販売ページ。定価で買うか、定価を30回払いで買うか、の2つのオプションのみだ

アメリカでは最新のiPhone 7 32GBの価格は649ドル。過去のモデルに見られた「199ドル」「299ドル」という、見かけ上だけの安売り価格はAppleのホームページで一切見られなくなった。この649ドルをたとえばAT&Tならば21.67ドルの30か月払いで購入することができるというわけだ。

このようにアメリカでは今、毎月の基本料金に加えて端末の分割払い代金を払うスタイルが一般化している。だが価格の安い端末で毎月の運用費を安くあげたいと考える消費者も多い。そこで少しずつ注目を浴びているのが価格の安い、SIMフリーのスマートフォンなのである。

ミッドレンジが中心、1-2万円台の低価格機が一気に増える

アメリカの大手チェーン家電量販店、BestBuyのスマートフォン販売コーナーへ行ってみると、SIMフリーのスマートフォンの種類が増えている。店舗によっては10機種くらいが販売されている。メーカーを見るとSamsungやMotorolaといった大手メーカー品だけではなく、BLUなどあまり名前の聞かれないメーカーの製品も取り扱われている。しかし今アメリカでは、そんなマイナーブランドの製品が少しずつ増えているのだ。

BLUは2010年に市場に参入し、当初は低価格なフィーチャーフォンをSIMフリーで提供。プリペイドSIMと組み合わせて利用するユーザー向けに、豊富なラインナップで販売数を伸ばしていった。アメリカでも中南米向けの製品が多く、QWERTYキーボードを備えたBlackBerryスタイルの製品も種類が豊富で、SMSを使ってメッセージを多用するユーザーに受け入れられた。大手メーカーには無いニッチな製品で一定のシェアを獲得していったわけだ。

2012年にはスマートフォンに本格的に参入。とはいえアメリカ大手キャリアは前述したように「iPhone 199ドル」などハイエンド機種の見かけの価格を安く設定して販売。BLUの中低位モデルは200ドル前後と割高感があり、存在感を示すことはなかなかできなかった。だが年々スマートフォンの製造コストが下落し、さらには低価格モデルでも1300万画素カメラや5.5インチの大型ディスプレーを搭載するなどスペックが向上。気が付けば100ドル台でそこそこ普段使えるミッドレンジモデルの数が増え、2年契約しなくとも手軽に買えるモデルを多数そろえるようになっていった。

BestBuyに並ぶSIMフリースマートフォン。BLUのモデルは約100ドル、スペックは低いがSamsungやMotorolaの半額程度だ

BestBuyに並ぶSIMフリースマートフォン。BLUのモデルは約100ドル、スペックは低いがSamsungやMotorolaの半額程度だ

例えばBLU Studio G Plusは5.5インチFWVGAディスプレイ、5メガピクセルカメラと、スペックはエントリーモデルのレベルだ。しかし大型のディスプレイのおかげでSNSの撮影は見やすく、動画を友人と一緒に楽しむことができる。価格は99.99ドルで、iPhoneの1/7で買える。もちろん性能はiPhoneの1/10以下だろう。しかしSNSとWEBと地図くらいしか使わない消費者が、700ドルもするハイエンド機種を買うメリットは無い。コンビニにふらりと立ち寄って買える、あるいは回転寿司のように手軽に寿司を楽しめる、そんな製品をBLUは多数揃えているのだ。

BLU以外にもNUU Mobile、Sky Devicesといった中小のメーカーがオンラインを中心にSIMフリーモデルをアメリカで販売している。価格は高くても300ドル程度。売れ筋モデルは100ドル台だ。スペックはミッドレンジだが、価格相応であり割高には感じられない。日本ではASUSのZenFoneシリーズやHuaweiのHonorシリーズなどが高いコストパフォーマンスで人気をじわじわと集めているが、それらと同じような製品がマイナーメーカーから次々と登場しているのである。

もちろん一定の所得のある層や、iPhoneの機能やブランドに価値を見出すユーザーは、これからもiPhoneを買い続ける。一度iPhoneを使った客が、低価格なAndroid端末へ乗り換える例はアメリカでも多くは無いだろう。しかし分割払いで安いからといってiPhoneを買っていた客や、所得の低い層などは、今の時代の低価格スマートフォンを買っても十分満足できるだろう。

ミッドレンジモデルで存在感を高めるSky Devices

ミッドレンジモデルで存在感を高めるSky Devices

日本でも今、通信事業者の料金の有り方にメスが入ろうとしている。そもそも日本の通信事業者の料金もハイエンドスマートフォンを売ることを考えた料金設定になっており、通話定額という名の裏に高額な基本料金を課している。日本の料金については諸外国との比較も行われ「高くない」という意見も聞かれるが、それもiPhoneなどハイエンドスマートフォンを使うことをベースに比較しているからだ。SIMフリーで1万円のスマートフォンをオプション無しで提供するならば、基本料金は例えば今の半額でも提供できるはずだ。

日本の消費者は他の国のユーザーよりも高度にスマートフォンを使いこなすことから、ハイエンドスマートフォンを好むことは世界中で知られている。モバイルペイメントの利用も日本の利用率は世界でもトップクラスだ。しかし景気の先行きが見えない中、高価なiPhoneを安く提供するために、割高な基本料金を設定する、という時代は世界の流れとは逆行している。「iPhoneの価格が高くなる」という反発の声も高いが、そもそもiPhoneを安く売るために割高な料金をすべてのユーザーが支払っているのは公平とは言えない。

日本のMVNOユーザーが毎年少しずつ増えているように、「低価格なスマートフォンを低料金で使えればいい」と考える消費者は日本にも多数存在する。総務省のタスクフォースで過剰な端末の割引が禁止されたが、それは一部の消費者だけが高い端末を割安で買えるという不公平を無くすためだった。今度は公正取引委員会が日本の通信事業者の慣例販売方式にメスを入れようとしている。ターゲットはiPhoneと言われているが、それは「iPhoneの安売りを無くす」ためではなく、「正常な市場に戻す」ということが理由なのだろう。

今後、日本でもiPhoneが安く買えなくなるかもしれないが、基本料金が引き下げられて2年間の総支払額が今よりも安くなるのならば、むしろ歓迎すべきことになるだろう。そのためには総務省や公正取引委員会には単純にスマートフォンの販売価格、割引価格を規制・監視するのでなく、明瞭な料金体系や2年間の総額の比較など、消費者にメリットのあることをアピールする必要がある。iPhone大国アメリカですらわずか数年で割引販売は撤廃された。日本の市場でも今後大きな動きが起きることは間違いないだろう。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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