コンテンツ企業がスマホを売る、LeTVの試みは軌道にのるか|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォンを製造するのは家電メーカーや携帯電話メーカーだ。最近ではAmazonがタブレット「Kindle」シリーズを販売するなど、コンテンツ提供企業がタブレット製造で成功を収めている。そのAmazonはスマートフォンにも進出したことがあったが、同社初のスマートフォン「Fire Phone」は特殊な機能を搭載したことで価格も高くなり、また他社のスマートフォンとの差別化に勝てず撤退してしまった。しかし今、新たなコンテンツ配信企業がスマートフォンの販売に乗り出し、成功しようとしている。それが中国のLeTV(LeEco)だ。

大型TVやセットトップボックスも販売、LeTVが放つ超ハイエンドスマホとは?

LeTVの名前は最近ではアジア圏で少しずつ聞かれるようになりつつある。同社は中国でストリーミングのビデオ配信を行っており、地上波の再放送や海外ドラマ、スポーツ番組などの放送も手掛けている。同社の番組はスマートフォンやタブレット、スマートTVで見ることができ、無料放送もあるが一部の番組のみの提供で、広告も入る。一方有料サービスに加入すればネットで視聴するTVのように、好きな番組を自由に見ることができるのだ。

LeTVの創業は2004年で、それ以来オンラインで動画配信サービスを提供していた。YouTubeのような個人作成動画の配信では無く、TV局や映画会社からライセンスを受けた「番組」のネット配信を続けてきたのだ。番組表もあり、連続ドラマも全シリーズがいつでも見られるとあって、LeTVの利用者は年々増えていった。

ストリーミグで映画やTV番組を放送するLeTV

ストリーミグで映画やTV番組を放送するLeTV

とはいえコンテンツは無料、と考える消費者が多い中国で、同社はどうやって有料放送を普及させていったのだろうか?それはハードウェアをセット販売し、そこにコンテンツ利用料を含ませるという売り方を取ったのだ。同社は2012年に市販のTVに接続するセットトップBOX(STB)を販売。このSTBをインターネットに繋げば、自宅のTVでLeTVが配信するTV番組をすべて見ることができるのだ。

しかしSTBを繋いだだけではLeTVを視聴することはできない。別途年間数千円の利用料金が必要だ。そこでLeTVはSTBと料金をセット販売したり、長期契約者を結んだユーザーにはSTBの割引販売を行った。そうすることで利用者の有料サービス利用を促したのだ。

2012年ころはSTBの値段が下落し、メーカーの参入も容易だった。LeTVはコンテンツ配信企業ながら、自らハードウェア事業に参入し、自社のSTB販売に踏み切ったのだ。もちろんSTBメーカーが販売するSTBにLeTVのアプリを入れてもLeTVの番組は見れるが、STBを買ってLeTVの料金を払う必要がある。ところがLeTBのSTBを買えばそれだけで番組が見れたり、あるいは料金の先払いでSTBを無料で入手することも可能なのだ。

LeTVはその後、スマートTVにも参入し大画面TVを次々と販売している。初のスマートTVは2013年5月7日に発表、シャープのパネルを利用した製品だ。これをLeTVは当初「シャープと共同開発」と発表し、それをシャープが否定するという事件もあった。そんなドタバタ劇の背景には、もはやLeTVのような企業でもTVの製造に参入することとが容易な時代を迎えたということである。

LeTVの最近の街中の広告。スマートフォンメーカーであることもアピール

LeTVの最近の街中の広告。スマートフォンメーカーであることもアピール

そのLeTVは、2015年夏に中国でスマートフォン市場に参入し、3モデルの販売を相次いで開始した。STBやTV同様、異業種からでもスマートフォンを自社ブランドで販売することが可能な時代がやってきたのだ。

ハイスペックスマホとコンテンツをセットで販売

とはいえ新規参入メーカーがいきなりハイエンドスマートフォンを出すことは通常は考えにくい。ミッドレンジクラスの製品から参入するのが一般的だ。ところがLeTVのスマートフォンは、2K(WQHD)ディスプレイにSnapdragon810を採用するなど、他社の上位モデルを横臥するウルトラ・ハイスペック機だったのだ。同社のスマートフォン3機種は、以前こちらの記事で紹介させていただいた。

▼ついに大手を超えた!超ハイスペックスマホが中国から登場|山根康宏のワールドモバイルレポート
http://blog.postco.jp/archives/10975

最上位モデルのLeTV MAXは、6.33インチ2Kディスプレイ、Snapdragon810、RAM4GB / ROM128GB、21メガピクセルカメラを搭載。市販の大手メーカーのスマートフォンに飽き足らない層もカバーする。一方3万円のLeTV Oneは普及価格帯モデルとして一般消費者もターゲットにする。またLeTV One Plusは5.5インチモデルで同社の主力製品となる。これら3機種は外部コネクタにUSB Type-Cを採用、一歩先を見越したハードウェア設計になっている。

さてこれら3モデルはスマートフォンメーカーや家電メーカーとは異なる販売方法で注目を集めている。前述の記事では中国での販売方法を紹介したが、それはLeTVのストリーミング放送の有料サービスに加入すると、スマートフォンの本体価格が割引されたり、ストリーミング放送で視聴できるデータ利用分が無償で提供されるというものだった。STBの販売時にコンテンツ利用代金をセットにした販売手法を、スマートフォンでも別の方法で提供したのだ。

なお勢いに乗るLeTVは2016年1月に世界初となる、Qualcommの最新チップセット「Snapdragon 820」を搭載するスマートフォン「LeTV Max Pro」も発表した。

これが10億を超える人口の中国内だけの動きであれば、加入者を数千万人集めることは簡単かもしれない。だがLeTVは中国に続き人口700万人の香港へ進出し、そして今、着々と加入者を増やしている。

LetVは香港で地元のIPTV企業と提携し、LeTVが配信するプレミアリーグサッカーの放送などを放送している。また香港のコンビニエンスストアの店頭などでTVにつなぐSTBも販売。価格が安く、優良な有償コンテンツが手軽に見えるとあり、無償でネットに流れている低画質のコンテンツを見ていた香港の消費者の興味を集めている。

しかもLeTVのコンテンツ利用者だけが増えているのではなく、iPhoneやGalaxy Noteなど大手メーカーのスマートフォンが大人気の香港で、LeTVのスマートフォンの人気もじわりと上がってきているのだ。これはLetVのスマートフォンが低価格だからではない。そもそも香港では、今や世界シェア上位に食い込んだ中国の新興メーカー、Xiaomi(シャオミ)のスマートフォンは全く売れていない。Xiaomiの製品は香港では「所詮は安物」という印象で、価格が安いことから年配者層や学生の一部が買うものの、Xiaomiを買うくらいならSamsungの中古を買う、という消費者が大半だ。

ところがLeTVのスマートフォンは前述したようにハイエンド品を中心としたラインナップであり、安物メーカーのスマートフォンというイメージは一切ない。Xiaomiの売りは価格だけだったが、LeTVの売りは超ハイエンドモデルなのだ。しかもしれにくわえ、プレミアリーグの放送を無料で見ることができる。

香港ではLeTVのスマートフォンを買うと、有料放送が無料で見れる

香港ではLeTVのスマートフォンを買うと、有料放送が無料で見れる

つまりLeTVのスマートフォンを買うと、まずLeTVの基本放送の1年分の利用が無料になる。この放送は購入したスマートフォン以外でも視聴可能だ。もう1台iPhoneを持っていればそれで見ることも出来るし、iPadなどのタブレットや、PCを使ってインターネット経由で視聴できるのだ。

さらには最上位モデルのLeTV Maxを買うと、プレミアリーグサッカーが3か月間見放題となる。プレミアリーグサッカーの視聴は他のIPTVの有料番組でも1か月あたり数千円と高い、香港でも人気コンテンツだ。LeTV Maxはハイエンド品とはいえ、香港での価格は4499香港ドル(約6万9000円)。これはiPhone 6s Plusの最上位モデルの半額だ。しかもiPhone 6s Plusの性能はLeTV Maxよりも劣る。

つまりiPhone 6s Plusよりも高性能、ベゼルレス設計で本体デザインも良く、1年間のLeTV見放題とプレミアリーグ3か月見放題の料金(合計2680香港ドル)もセットになったハイエンドスマートフォンならば、有名メーカーのスマートフォンを真っ先に選ぶ香港でも、消費者に十分受け入れられるということなのだ。ちなみにLeTVの料金を本体代金から引けば、わずか1899香港ドル、約2万9000円でハイスペックスマートフォンを買うことができるのだ。TVも見るしサッカーも見たい消費者にとって、LeTVのスマートフォンを買わない理由は無いのだ。

スマートフォンとしても超ハイスペック、しかもLeTVの番組もワンタッチで見ることができるLeTV Max

スマートフォンとしても超ハイスペック、しかもLeTVの番組もワンタッチで見ることができるLeTV Max

さてスマートフォンの割引販売は世界各国で行われている。日本でもiPhoneが無料に近い価格で購入できるケースもあるが、通信料金の高止まりや複雑なオプションプランなど、消費者にとっての弊害も多い。アメリカでは各通信事業者がiPhoneの大幅な値引き販売を終了し、正規価格での分割払い販売への切り替えを行っている。日本では今後、大手通信事業者が低料金プランを出す代わりに端末の割引率が下がり、スマートフォンの実質的な価格が値上がりする方向になるだろう。

もはやスマートフォンをタダでもらえる時代は終焉を迎えつつあるということだ。だがLeTVのような、コンテンツ配信企業が自社でスマートフォンを販売し、コンテンツとセットで実質的な割引を行う、という動きが中国や香港で始まっている。恐らく香港ではいずれ、通信事業者とLeTVが提携を行うだろう。「LeTVのスマートフォンを買うと、通信事業者は基本料金を割引し、LeTVはスマートフォンを安く売る、そしてコンテンツを使ってもらう」という売り方だ。

LeTVは今後インドなどへも進出する予定だ。果たしてどのような販売手法でスマートフォンとコンテンツを展開していくのか非常に興味深い。LeTVの動きは、これからのスマートフォンの売り方に新たな道筋を生み出すかもしれない

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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