スマートホームの普及は身近な家電から|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートフォンやタブレットを使って家電製品のコントロールしたり、ドアの開閉やIPカメラを使い家庭内の映像を監視するなど「夢の近未来」生活を可能にするスマートホーム。だが家中の家電を全て買い替える家庭はまだまだ少ない。そこでヨーロッパの家電メーカー各社はスマートホームの普及を「身近な製品から買い替えてはいかが?」と、スローペースで進めるようだ。

1台の家電から始められるスマートホーム

家電の低価格化が進む中で、家電各社は付加価値を持った電器製品を売り込もうとここ数年躍起になっている。特許の切れた薬の代替品「ジェネリック医薬品」に倣い、新興メーカーによる低価格な家電製品の一部は「ジェネリック家電」とも呼ばれる。大手メーカー品ほどの品質は無いものの、性能はほぼ同一、そして価格は半額以下などジェネリック家電は世界中で人気となっている。

大手家電メーカーとしては価格では太刀打ちできないことから、様々な方法で家電を進化させようとしている。省エネなどエネルギー効率を高めたり、洗浄時間の短縮など使いやすさの改善、またインテリアとして溶け込むデザインの製品など、単純に機能を高めるだけではなく生活を豊かにしてくれる製品の開発に力を入れているのだ。そして将来を見据えた製品として、スマートホーム向けの家電、スマート家電の開発もここ数年活発化している。

デザインキッチン家電「CHEF Collection」はSamsungのブランド

デザインキッチン家電「CHEF Collection」はSamsungのブランド

スマート家電製品は数年前から様々なものが登場している。だが家電の進化以前に、スマートフォン側の能力が低くストレスなく使える状況では無かった。スマートフォンの画面が小さいことやCPU速度の低さなどからアプリが使いにくかったり、あるいは通信回線も3Gではスムースな家電コントロールは難しかった。だが今やスマートフォンのタッチパネルの精度も上がっており、画面サイズも大きく操作しやすくなている。そして高速な4G回線の普及によって家の中に取り付けたカメラのライブ映像も遅延無くオフィスや外出先から見ることができるようになった。

これでようやくスマート家電を普及させる障害は無くなったようにも見える。しかしヨーロッパの家電メーカーは「使えるものを1つでも導入してはいかが?」と、スマート家電、スマートホームのソフトな普及を推し進めようとしている。

例えば洗濯機の運転状況をスマートフォンでオフィスから監視する必要があるかといえば、多くの人は関心を持たないだろう。また冷蔵庫の中を外出から見たいけど、家の鍵は自分で開け閉めするから家中をスマートフォンでコントロールする必要はないと考える人も多い。そもそもまだまだスマートフォン側のスマートホームアプリのUIも使いやすいとは言い難い。このような状況で家電メーカーから「うちの家電を組み合わせれば、家の中全てをコントロールできる」と言われても、むしろそのような製品を敬遠しジェネリック家電に走る消費者を増やすだけ、逆効果になってしまう。

海外展示会(IFA2015)のSiemensブース。オーブン新製品の一部のみがスマートオーブンだ(Home Connect対応製品)

海外展示会(IFA2015)のSiemensブース。オーブン新製品の一部のみがスマートオーブンだ(Home Connect対応製品)

海外の家電関連展示会でも、家電メーカー大手はスマート家電を集めた専用展示コーナーをここ数年は設けていた。だが最近ではカテゴリごとに家電製品を並べ、その中にスマート家電もある、といった展示方法に戦略を変更しているようだ。家電を見に来た来場者は冷蔵庫とオーブンは一般的な製品の動作を確かめ、冷蔵庫だけはスマートフォンでコントロールできるものを選ぶ、といった見学ができる。消費者ごとにスマートホームに求める要望は異なっており、現時点の家電では現実的に「全てが遠隔操作できる夢の生活」を送れるだけの機能は持っていない。そうであれば、身近なところから、まずはスマートフォンでコントロールしたいと思う製品から買ってもらおうと各社は考えるようになったのだ。

スマート家電の普及はゆるやかに進むもの

スマートフォンでコントロールできる家電の種類も今や大幅に増えている。洗濯機、冷蔵庫、オーブン、乾燥機、エアコン、掃除機、照明などなど、キッチンやリビングの家電の多くがスマート家電で置き換えることができる。中でもカメラを有効利用したスマート家電は今後人気となりそうだ。カメラ内蔵のスマート冷蔵庫なら外出先から冷蔵庫内に残っている食品を確認できるので、スーパーでの買いそびれや買いすぎを防ぐことができる。カメラ内蔵のスマートオーブンなら、ドアを開けることなく鶏肉やパイの焼き具合を見ることができる。しかもスマートオーブンなら寝室にいながらスマートフォンを使って具合を確認しつつ、いつでも調理を止めることができるのだ。

Boshのカメラ内蔵スマート冷蔵庫。スマートフォンやタブレットで冷蔵庫内部を見ることができる

Boshのカメラ内蔵スマート冷蔵庫。スマートフォンやタブレットで冷蔵庫内部を見ることができる


Boshのカメラ内蔵スマート冷蔵庫。スマートフォンやタブレットで冷蔵庫内部を見ることができる

またここ1年でちょっと人気が出てきているのがスマートコーヒーメーカー。好みのブレンドを作ったらそれをスマートフォンアプリ内に複数登録でき、気分や時間に合わせて自分のお気に入りのコーヒーを入れることができる。ある程度手作業で分量や時間のコントロールが必要だったコーヒーメーカーだが、これこそスマート家電化に一番向いている製品かもしれない。コーヒー好きには今までなかった高性能なコーヒーメーカーでもあるわけだ。

一方でスマート家電ならではの機能も有用だ。スマートフォンを経由してインターネットへ接続できることから、故障時の対応もスマートフォンを使いサービスセンターのスタッフとチャットで相談を行うこともできる。家電が故障すれば自動的にスマートフォンにアラートを表示し、そこから修理依頼をオンラインで行なえる製品もある。また日々のメンテナンスとして例えば洗剤をカートリッジで利用する洗濯機がヨーロッパにあるが、そのカートリッジ切れのアラートや買い替え用のカートリッジをスマートフォンからオンライン注文できる製品も登場している。

Siemensのスマートコーヒーメーカー。スマート家電は案外このような製品から普及がすすむかもしれない

Siemensのスマートコーヒーメーカー。スマート家電は案外このような製品から普及がすすむかもしれない

スマートホームと聞くと遠い未来のもので、家の中の家電を買い替えるだけでも大きな費用がかかると思いがちだ。だが個々の家電のうちの一つでもスマートフォンでコントロールできるようになれば、それだけでも生活は便利になる。そしてスマートフォンで家電をコントロールすることに消費者が慣れれば、次に買い替える家電はスマート家電にしようと思うだろう。

スマートホームはいきなり全家庭の全家電が置き換わるのではなく、これから年月をかけて少しずつ普及していく。家電メーカーとしてはすぐにでもスマート家電への買い替えを促したいだろうが、まだ4-5年は消費者マインドが追い付くことは無いだろう。普及の速度を高めるためにはスマートホーム普及を国策とし、スマート家電への購入補助金を提供する、といったた施策が必要になるのではないだろうか。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー
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