ファッションとITの融合、ウェアラブルが洋服の世界へ進出|山根康宏のワールドモバイルレポート

スマートウォッチやスマートグラスなど、身体に装着するスマートフォン連携デバイスが増えている。だがよくよく考えてみると、我々は毎日洋服を着て外出している。365日ほぼ毎日身体にまとう洋服が、スマートフォンと連携する機能を有していないのは実は勿体ないことなのかもしれない。実は2015年9月にドイツで行われたIFA2015では、ファッションとITの融合の展示が見られた。スーツやスポーツウェアとスマートフォンが連携するとどう便利になるのだろうか?

ファッションも手掛けるSamsung、スーツにNFCを内蔵

IFA2015の展示ブースの中でも最大規模を誇るSamsung。スマートフォンからスマートTV、さらにスマートホーム関連など同社ブースはSamsungの最新製品、最新技術を大きくアピールする場だ。だがそのブース中央からちょっと外れた一角にある展示物は回りのIT製品とは趣が異なるものだった。そこに並んでいたのはスーツや財布、ハンドバッグなどだったのだ。これらはSamsung C&T(サムスン物産)のファッション部門が出展したものだ。

Samsungはスマートフォンや家電メーカーとして知られれるが、それはグループの中核の「Samsung Electronics」の製品だ。Samsungは総合財閥であり、グループの企業展開は保険や金融、不動産、貿易など幅広い。その中の一つがSamsung C&Tで、同社はファッションも手掛けている。Samsungがファッションというとピンとこないだろうが、韓国などで複数のブランドを持ち洋服などを販売している。ちなみにSamsungのロゴ入りの服を売っているわけではない。

IT関連の展示会に出展したSamsung C&Tファッション。洋服や小物がスマートフォンと連携できる

IT関連の展示会に出展したSamsung C&Tファッション

Samsung C&Tはすでに2014年からスマートフォンと連携できるスーツ「スマートスーツ」を発売ししている。スマートの意味は柔軟でしわになりにくい布地を使ったスマートに着れるスーツという言う意味もあるが、文字通りにインテリジェンスなスーツとして、スマートフォンとの連携が考えられているのである。

同社のファッションブランド「Rogatis」のスマートスーツは、スーツの内側にNFCタグが縫い付けられている。ここにスマートフォンをタッチするだけでスマートフォンをマナーモードにしてくれる。急な商談の時など、スマートフォンを操作しなくともスーツにかざすだけでよいわけだ。またポケット内側にもNFCタグが貼り付けられており、ヘッドフォンを刺したスマートフォンを入れると自動的に音楽再生を行ってくれる。さらには襟口には小さい穴が開いておりポケットに入れたスマートフォンから伸ばしたヘッドフォンを首のすぐ横から出すことができる。スマートフォンのコードを表に出さずともヘッドフォンを利用できるわけだ。

NFCタグが縫い込まれたスマートスーツ。スマートフォンの機能をワンタッチでコントロール

NFCタグが縫い込まれたスマートスーツ

これらの機能は考え方としては簡単なものだが、一般的なファッションブランドからはこのような製品はなかなか出てこない。これはSamsung C&Tのユン・ジュファ代表が元々Samsung Electronics出身であることや、グループ企業内にスマートフォンとファッションの事業を展開している企業が成せる業だろう。AndroidスマートフォンにNFCの搭載が始まったころ、Sonyなどからキーホルダーにもなる小型のNFCタグが発売されたことがあった。それをポケットに入れたり車の車内にぶら下げておけば、スマートフォンをワンタッチするだけで特定の機能やアプリをすぐに呼び出しできるというものだった。しかしその手の製品がほとんど普及しなかったのは必然性の無い製品だったからだろう。これに対してRogatisのスマートスーツはビジネスパーソンが「あるといいなあ」と思った機能をスーツに縫い込んだNFCタグで実現している。必然性のある機能を製品化したというわけだ。

名刺機能を呼び出す財布、充電がすぐに始まるハンドバッグ

IFA2015のSamsungブースではそのスマートスーツに加え、若いビジネスパーソンをターゲットにしたブランド「MVIO」のアクセサリを出展。スマートな財布とスマートなIDカード入れはそれぞれスマートフォンをかざすことで、スマートフォン本体内の自分の名刺を呼び出して商談相手などにすぐに転送することができる。またNFCで呼び出せる機能はカスタマイズ可能なので、アラームの設定やカレンダーの呼び出し、フライトモードのOn/Offなど様々な操作をワンタッチで行うことができる。

財布にワンタッチでスマートフォンの自分の名刺(電話帳データ)を表示、相手にすぐに送信できる

財布にワンタッチでスマートフォンの自分の名刺(電話帳データ)を表示、相手にすぐに送信できる

この他にはスマートフォンを入れるだけで充電できるハンドバッグやブリーフケースなども展示。どちらも内部にモバイルバッテリーを搭載しており、スマートフォンとの接続はマグネット式のコネクタでワンタッチで行うという。スマートフォンを入れるポケットがハンドバッグの中にあり、そこにスマートフォンを入れるとうまい具合に充電ケーブルのマグネットが接続されるというわけだ。ワイヤレス充電を使えばより簡単に充電できそうだが、充電効率やハンドバッグの形状・重さを考えるとこの方法が現時点ではベストだという。ハンドバッグやポーチにモバイルバッテリーを忍ばせている人も多いだろうが、元からバッテリーが入っていれば自宅に置き忘れてしまう心配もなさそうだ。

バッテリーを内蔵したハンドバッグ。スマートフォンを入れるだけでワンタッチで充電コネクタも接続できる

バッテリーを内蔵したハンドバッグ。

これから社会人となるビジネスパーソンはすでに学生時代にスマートフォンを利用している「新デジタル・ネイティブ世代」でもあり、身の回りのアクセサリとスマートフォンを連携させて使うことも当然のように行うだろう。Samsung C&Tも全てのファッション製品をスマート化するのではなく、若い世代向けの製品からスマート化を進める予定だ。しかも急速に。

IDカード入れ、カフスボタン、ネクタイ、ハンカチ、いろいろなものにNFCタグを入れていく

IDカード入れ、カフスボタン、ネクタイ、ハンカチ、いろいろなものにNFCタグを入れていく

スマートな洋服はスポーツウェアの分野ではいくつか製品化されているものが出てきている。またセンサーを多数内蔵し動きを記録してクラウドに送りそれを解析するといった高度な製品を開発している企業もある。だがそこまで高性能ではなくとも、日常的に使う洋服や身の回りのアクセサリでスマートフォンをちょっとコントロールしたり、あるいは充電などが出来るだけでも便利だろう。

腕時計型のウェアラブルデバイスであるスマートウォッチは今までスマートフォンメーカーなどが製品を出していたが、タグホイヤーなど本家の腕時計メーカーの参入が始まろうとしている。一方スマートなファッション製品はITメーカーが直接手掛けるのは難しく、Samsungのようにグループ企業内でファッション部門も持つメーカーはむしろ稀な例だ。スマートスーツやスマートなファッションアクセサリが人気になれば、いずれはITメーカーとファッションブランドがコラボしてスマートなウェアラブル製品を出す、そんな時代がやってくるかもしれない。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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