もはや「格安」ではない韓国TGのSIMフリースマホ|山根康宏のワールドモバイルレポート

日本でも通信キャリアを通さず購入できるSIMフリーのスマートフォンの種類が増えている。ASUSのZenFoneはカメラ強化モデルやセルフィー特化製品など種類を着々と増やしている。またALCATELが「上下反転スマホ」で新規参入するなど、お手軽価格のSIMフリー端末の種類が増えている。

一方、日本と類似した市場モデルの韓国では日本とは異なる形で低価格スマートフォンが少しずつ数を伸ばしている。中でも2015年9月にTG&Coが発売した『LUNA』が大ヒットとなった。このLUNAはどんな製品なのだろう?

新規参入で初回ロット完売のLUNA

韓国はSamsung、LGというグローバルでも強いメーカーが次々と新製品を投入している。そのため単独メーカーによるSIMフリー端末市場がなかなか育っていない。低価格スマートフォンの種類は増えているが、そのほとんどがキャリア経由で販売されている。そもそも韓国はキャリア販売スマートフォンもSIMフリーであり、通信方式に若干の制限はあるもののキャリア販売のスマートフォンを他のキャリアで使うことができる。

大手メーカーが強い韓国では、昨年Huaweiが『Huawei X3』を発売、2015年に入ってからはALCATELが参入を行うなど、海外メーカーの製品が少しずつ増えている。だが日本同様に国産メーカーとAppleの強い韓国ではなかなか海外メーカーの製品が受け入れられにくい。そのためALCATELは「フランス・パリ発」をアピールした広告を展開し、まずはブランドイメージを高める戦略に注力している。

ALCATELはフランスを印象づけるCMでアピール

ALCATELはフランスを印象づけるCMでアピール

このような状況の中で、韓国シェアトップキャリアのSKテレコムが8月に発売したTG&CoのLUNAは初回ロットが一瞬で完売するほどのヒット商品となった。韓国では大手メーカーが大量の新製品を投入するため、新規参入メーカーや新興メーカーの新製品が初期に販売する製品台数は3万台程度と言われている。この3万台ですら数か月かかっても完売しない製品もある。ところがLUNAは9月4日の販売開始直後から1日2000台を売り上げ、2週間ほどで初期ロットを売りさばいてしまったのだ。

TG&Coは韓国の大手PCメーカーであるTG Sambo(三宝)の関連会社であり、スマートフォンやIoT製品を開発・販売する目的で設立された。LUNAは同社初のスマートフォンということもあり芸能人を使った派手な広告を発売前から行うなど、綿密なマーケティングも展開されていた。しかも価格は単体で4万円台度と安い。しかしLUNAがヒットしたのは広告や価格だけが勝因では無い。

LUNAの性能はCPUがSnapdragon 801、クアッドコア2.5GHz、RAM3GB、ROM16GB、5.5インチフルHDディスプレイ、カメラは背面が1300万画素にフロントが800万画素。このスペックだけでも十分な性能だ。しかもフロントカメラのF値は1.8と明るく、セルフィーを好む女性ユーザーを強く意識した設計になっている。

初参入ながら一瞬で完売となったLUNA

初参入ながら一瞬で完売となったLUNA

そして価格は40万ウォン台、日本円で5万円弱となるがSKテレコムとの2年契約により10万ウォン程度、約1万円で購入ができる。「大手メーカーのハイエンドモデルとそん色ない性能で価格は半額」、これはどこかで聞いたことのあるフレーズだが、中国のXiaomi(小米科技)のスマートフォンが市場シェアを一気に拡大していったときを彷彿させる。もちろんSamsungやLGのハイエンドモデルはより高解像度なディスプレイを搭載し、CPUもさらに高速なものを搭載している。だがLUNAのスペックは、一般消費者にとってもう必要十分以上の性能を有しているのだ。

LUNAの世界観のアピールに成功

そしてLUNAは韓国市場では初の金属一体型のユニボディーを採用した製品となった。本体の質感は高く、これまで他社が出していた同価格帯の製品よりもはるかに高級な仕上がりとなっている。中身を抜きにしてこの価格でこれだけのモノが買えるとなれば多くの消費者が飛びつくのも納得がいくだろう。

ところでLUNAのデザインはどことなくiPhoneにも似ている。だがAppleのブランド力がすでに強い韓国で「iPhoneモドキ」を買おうと考える消費者はいない。TG&COももちろんデザインが似ていることは十分承知しており、金属ボディーで高級感を出すとなると類似した形状になることはやむを得なかったのだろう。

ところがLUNAの広告戦略を見れば決してiPhoneモドキを作ったのではないことがわかる。LUNAのテレビCMはその名前、すなわち「月」を強くイメージしたものにしておりミステリアスな印象を強く出している。月明かりの下でLUNAを手に握るガールズグループAOAのソルヒョンを使ったCMは、Appleの「明るく楽い」というアメリカ的なイメージとは対極的だ。また販売キャリアのSKテレコムは年配者が楽しく使える低価格端末であることもアピールしている。

LUNAのCMの1シーン。神秘的なイメージはAppleとは真逆のもの

LUNAのCMの1シーン。神秘的なイメージはAppleとは真逆のもの

さらにはすでにTG SamboがPC販売で作り上げた韓国国内全土に展開するサービスセンターの存在も大きい。韓国では中国メーカーの低価格家電の売り上げが伸びているものの、壊れてもすぐに修理できないといった苦情も多く聞かれる。ひと時も手放すことのできないスマートフォンだけに、アフターサービスがしっかりしている点もLUNAを買う安心感につながっているのだろう。

TG&CoはLUNAを増産し、海外展開も視野に入れているという。同価格帯の製品としてコストを抑えたモデルを投入しているSamsungとLGにとっては手ごわいライバルになるかもしれない。また韓国ではiPhone 6sと6s Plusの発売の第一次国からはずれたが、、古いスマートフォンを使っている消費者が、6s/6s Plusに乗り換えずにLUNAに買い替える、という動きも起きるだろう。「動きが快適、セルフィーが楽しく、しかも高品質、さらに低価格」と四拍子揃ったLUNAに死角があるとすれば生産台数が人気に追いつけていない点くらいかもしれない。

実は新興メーカーの最近のスマートフォンも、LUNAのような高級高性能なもの、価格重視で高性能なものと、製品展開の方向が二極化しつつある。世界シェア10位内に入った中国のXiaomiも、昨年までは高級な金属ボディーモデルを積極的に出していた。だが最新モデル『Mi4c』はカラフルな樹脂製ボディーになりカジュアルな方向を目指している。しかしこのMi4cは、スペックが高く低価格であるものの市場での反応はいま一つだ。

一方で日本参入を決めたSmartisanや、同じく中国新興メーカーのOnePlusなどは金属ボディーの高級モデルを最上位に置いた製品展開を行っている。最近では中国でもこれら高級モデルを手掛けるメーカーのほうがメディアでもよく取り上げられ、また話題も多い。

XiaomiのMi4c(左)は低価格だがカジュアルな製品に。OnePlusの新モデル(右)はカーボンバックカバーなどもある高級モデル

XiaomiのMi4c(左)は低価格だがカジュアルな製品に。OnePlusの新モデル(右)はカーボンバックカバーなどもある高級モデル

今や中国には多数のODMメーカーがあり、スマートフォン本体のデザイン設計から製品製造まですべてを行ってくれる。誰もがスマートフォンの製造に参入することが可能な時代になっている。スマートフォンの性能もCPUやカメラモジュールが同じであればどのメーカーの製品も横並びにだ。そうなると価格や性能だけで勝負することはより難しくなっていく。

Xiaomiのように数千万台を売るメーカーならば薄利多売でも勝てるだろう。だが数万台から数十万台規模で新規参入するメーカーが生き残るためには、価格と性能以外の面で特徴を出していく必要がある。LUNAの韓国での成功は、新興メーカーの進むべきお手本の一つとも言えるのだ。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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