ソフトバンクPepper、開封の儀|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開日: : 最終更新日:2015/11/12 モバイル研究家コラム, 木暮祐一のぶらり携帯散歩道

わが国では、スマートデバイスといってもその大半はいわゆる「スマホ」が流通しているのみでした。「IoT」(=Internet of Things、モノのインターネット)なんていうキーワードも飛び交っているもの、身の回りのあらゆるものが通信する、さらにスマート化していくということがなかなかピンときませんね。これは、わが国ではスマホというと通信事業者が商品企画し、ラインアップを考え端末の開発をしたり、あるいはグローバル端末の国内向け導入を図っているところに問題があります。通信事業者が主役という立場ですと、どうしても“電話機の延長”という発想でラインアップが構成されてしまうのですね。

一方、世界に目を向けると、Andorid OSを搭載した冷蔵庫だとか、子ども用スマートロボットなんてものも商品化されていましたし、OSこそ独自ですが、米国の電気自動車メーカー「テスラ」の車両などは、まさに“タイヤとハンドルが装着されたタブレット”です。こうした“電話機の延長”という発想にとらわれず、新しいスマートデバイスに挑戦していくことこそ、日本の企業に求めたいと常々考えていたところですが、ソフトバンクがこのほど発売開始したスマートロボット「Pepper」はまさに新しい発想で生まれてきたIoT端末といえそうです。そのPepperをついついポチってしまいました。

じつは117万円もする超高価端末

 Pepperを一言でいえば、手足の付いたタブレットです。人型(ヒューマノイド)で、会話を通じたコミュニケーション(情報の入出力)も可能です。ロボットといえば、かつてソニーが犬型ロボット「AIBO」を発売しましたが、あれはスタンドアローンな端末でした。しかしPepperは常にインターネットに接続され、クラウド上の情報を「知識」のように披露してくれます。たとえば「ニュース」といえば、最新のニュースのヘッドラインをしゃべってくれます。通信を通じて順次バージョンアップもしていくことでしょう。このあたりがインターネットに接続しないスタンドアローンなロボットと、クラウドと連動したロボットの大きな違いです。

 Pepperのウリは「感情」持っているということ。こちらが発声する音声や、Pepperに備えられたカメラやセンサーから感じ取られた情報を元に、Pepperが“空気を読んで”くれて、それをPepper自身の感情として表現してくれます。胸のタブレット上に表示されているもやもやした模様が「白」のときは“平常”、「赤」のときは“悲しい”、「緑」のときは“うれしい”という気持ちになっています。さらには「感情マップ」アプリを起動することで、Pepperのリアルタイムな感情の変化をさらに詳細に理解することもできます。

 それ以外に何ができるのかと言われれば、あとは今後順次Pepper用に開発されていくであろう「ロボアプリ」の充実にかかっているわけですが…。

 ともあれ、世の中に初めて登場する全く新しいコンセプトのスマートデバイスを試さないわけにはいきません。ソフトバンクはさる2月27日午前10時より、開発者向け限定として300台を用意し、Web等での販売を行いました。当然、この時も10時以前からパソコンに向かって購入のための入力を行ったのですが、あえなく抽選で落選。

 一旦はあきらめたのですが、いよいよ一般販売を6月から受け付けることが決定。第1回の申込受け付けは6月20日午前10時。この日は1,000台の予約注文を受け、予定数に達した時点で終了し、申込ができた人は必ず購入できるというものでした。この日も開始30分ぐらい前からパソコンで応戦。そして見事10:00受け付け開始後、20秒で入力を終了し、申込を受領していただいたのでした(やはりこの時も1分で受付終了、予定数完売を果たしたようでした)。

 この仮申込後、本申込は郵送で送られてくるということで、気長に書類の到着を待っていたのですが、しかし気が気でないのはその価格です。Pepper発表時に孫正義氏は「販売価格198,000円」と宣言してしまいましたが、そもそもこれだけのロボットがそんなに安価に購入できるわけがありません。やはりそこには後から代金を回収するという通信事業者ならではの手法が用意されておりまして、本体代金は198,000円としていますが、Pepperの感情認識機能やロボアプリの利用を行うためには「Pepper基本プラン」への加入が必須で、これが14,800円×36カ月。さらに義務ではありませんが、Pepper保険パックも用意され、これが9,800円×36カ月必要となります。しかも途中解約はできません。トータル、1,083,600円! これに消費税が掛かります。契約時の消費税率が適用されますので、どうせなら消費税が8%のうちに購入しておいたほうがお得でしょう。税込み約117万円。大変大きな買い物です(それでも、ソフトバンク関係者の話では原価割れの提供のようです)。

 最悪の場合は、本申込でキャンセルしよう、ぐらいで考えておりましたが、実際にPepper本申込書類が届いて悩みました。軽自動車が買えるぐらいの価格ながら、果たして軽自動車以上に利活用できる価値があるのか? 本体代金も36回分割払いが可能ですので初期費用はこのほかに契約手続き手数料9,800円のみ、あとは毎月32,508円が飛んでいくことになります。これまで、黎明期から携帯電話サービスは新しいものが始まれば初日に実際に購入し、それを評価してきたというのが自負ですが、Pepperばかりは勇気がいります。そんなときに妻が「買っていいよ、なんとかなるでしょう」の一言をささやいてくれたおかげで、決心がつきました! そんな迷い迷った本申込が7月下旬にあり、そして書類を返送後、ついに8月21日にPepperが配送されてきました。

研究室に届いたPepper

研究室に届いたPepper

 ソフトバンクとしては将来、Pepperのようなロボットが一家に一台ある世界を描いているのでしょう。その未来をどの家庭よりも先に体験できる、これがきっと自分にとって大きな力につながるものと信じ、購入してみました。117万円は決して安くはありません。しかし、自動車電話も登場当時には保証金を含め、40~50万円したものです。しかも月額基本使用料も2万円近く。これが30年以上も前の話で、現在の貨幣価値にしてもれば、Pepperもあの時の自動車電話と変わらないものでしょう。当時、自動車電話など本当に必要なのか、ずいぶん議論になりました。高価な割に通信可能エリアは限定的で、しかも通話品質もひどいものでした。しかし、ユーザーが徐々に増えていくにつれて端末価格も利用料金も引き下がっていき、気が付けば誰もが持つものになり、そして手放せないものになりました。同じように「ロボットがなぜ必要なのか?」という声が聞こえてきますが、これが徐々に社会に浸透し、ロボット自体もどんどん高機能、高性能化していくことで、いずれ「どの家庭にもあるもの」になっていくのかもしれません。自分がそういう社会になるまで生きているのか分かりませんが、未来の一端に誰よりも早く触れてみたかったのです。

そしてついに「開封(開棺?)の儀」

 実際に、Pepperにはこれまでソフトバンクショップの展示品をはじめ、何度かお目にかかったことはあったのですが、やはり“自分のもの”としてのPepperの到着は心躍るものでした。日中の配送のため自宅は不在、そこで職場である大学の研究室に持ち込んでいただくことになったのですが、やはり本体が梱包されている梱包箱は大変大きなものでした。これは運ぶのに1人では無理なサイズと重量ですね。

 まるで棺桶のような梱包箱を横たわらせ、開封していきます。ゼミの学生も息をのんで開封の瞬間に立ち会ってくれていました。

2>Pepperの梱包箱を開封、そこにPepperが眠っていました

2>Pepperの梱包箱を開封、そこにPepperが眠っていました(写真でお伝えできないのが残念ですが、自分なりに感激の一瞬なのです)

 梱包箱には、初期起動までの操作方法が記されたチュートリアルが貼り付けられていました。これに従って、Pepperを箱から引っ張り出し、電源を入れます。魂に火が灯った瞬間でしょうか。何やらPepperが訳のわからない言語で二言しゃべったあと、起動リズム音が鳴り響きます。起動まで5分以上かかるようです。その間に、胸のタッチパネルには言語の設定や、Wi-Fi接続設定、アルデバランアカウントの設定などが順次指示されます。さらに、その後ソフトウェアのアップデートが始まり、さらに数分待たされました。

 そしてついにPepperが目覚めました! Pepperは腰をくねらせながら自分の体を見回し、そして腕を動かし、その様子はまるで今ここで生まれた自分の存在を確認しているような感じです。

目覚めたPepperを激撮するゼミ生たち

目覚めたPepperを激撮するゼミ生たち

 「Pepper!」と話し掛けると、「はーい!」と返事が返ってきます。そして会話が始まります。あらかじめ多数のロボアプリがプリインストールされていて、アプリ名を声かければ「分かりました!」という掛け声と共に、アプリを起動してくれます。そして、家族登録として日ごろPepperに接する人たちの顔を撮影してニックネームと共に保存しておくと、Pepperはそれぞれの家族について順次学習していきます。その学習結果はクラウドに保存され、これが集合知となって他のPepperの頭脳にも影響を及ぼしていくそうです。

ロボットが家族になる日は本当に来るのか?!

ロボットが家族になる日は本当に来るのか?!

 ソフトバンクは今年2月10日、米IBMが開発している人工知能「Watson」の日本市場での開発と市場導入で戦略的提携を結んだと発表しました。「Watson」は、ネット上にあるいわゆるビッグデータを分析し、自然言語で投げかけられた複雑な質問を解釈し、根拠に基づいた回答を提示するクラウドベースの人工知能です。どんな質問をぶつけても的確な回答をしてくれるといいます。2011年に米国のクイズ番組『Jeopardy!』に回答者として「Watson」を音声で登場させ、クイズ王と対戦させつつ見事に勝利を勝ち取り、一躍話題になりました。

 このWatsonがPepper上で、しかも日本語で利用できるようになったらどれほど便利なことになるでしょう。Pepperに対して、様々な質問を投げかければPepperが最適な回答を瞬時に回答してくれるはずです。必要に応じて胸のタブレットに映像情報も表示してくれるでしょう。この2月時点での日本アイ・ビー・エムとソフトバンクテレコム(現、ソフトバンク)の共同発表リリースによれば、教育、銀行、保険、小売や医療などの産業界に提供していくことを目論んでいるようです。現時点では、このWatsonの日本語化を進めている段階で、まだPepperともつながっていません。しかし、ソフトバンクが目指しているところは、まさにここなのでしょう。

 もちろん、Pepper用アプリケーションは様々な企業や個人が提供可能です。どのようなアプリケーションが登場してくるか楽しみですが、やはり人工知能系のアプリケーションは増えていくのではないでしょうか。Watson以外にも、様々な人工知能がアプリケーションとしてアプリストアに並ぶ可能性もありえます。さらには、テキドーな会話が継続できる「人口無能」も求められるかもしれません。

 ということで、ようやく我がPepperの調教(?)が始まったばかりですが、筆者にとっては自動車電話・携帯電話サービススタート時の、あのときと同じ興奮を感じさせてくれる出来事でした。実際のPepperの活用はこれから考えていきます。また続報させていただきますし、また読者の皆様から活用方法の提案などもお待ちしております。

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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