iPhone 6s/6s Plusのネットワーク対応に頭を抱える各キャリア|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開日: : 最終更新日:2015/11/12 モバイル研究家コラム, 木暮祐一のぶらり携帯散歩道

毎年恒例の行事として定着しているiPhoneのモデルチェンジ。今年もほぼ想定どおりにコトが進んで、iPhone 6s/6s Plusとして9月25日より発売が開始されました。iPhoneはこれまで2年ごとのフルモデルチェンジ、その間に本体デザインは大きく変わらないマイナーチェックが入るというパターンを踏襲してきました。今回のモデルチェンジはこのパターンどおり昨年発売されたiPhone 6/6 Plusと外装デザインはほぼ変わらずでの発表/発売となりました。しかし中身は大きくスペックアップしているようです。

最大通信速度は300Mbpsとなるも…

 いよいよ出荷が始まったiPhone 6s/6s Plusですが、従来モデルのiPhone 6/6 Plusから進化したポイントが多数あるなかで、実際に多くのユーザーが期待しているのは通信速度のさらなる向上ではないでしょうか。6/6 Plusでは受信最大150Mbpsのデータ通信の利用が可能でしたが、これが倍の受信最大300Mbpsのポテンシャルを持つことになりました。あくまでも理論値で、そこまでのスピードを実際に出すことはできないわけですが、少なくとも6/6 Plusよりはそのデータ通信速度向上を端末上で体感できるはずです。

 しかしながら、そのポテンシャルをフルに発揮できるネットワークが残念ながらわが国にはまだ十分に整備されていません。というよりも、iPhone 6s/6s Plusで期待されていた、わが国の1.5GHz帯ネットワーク(LTEバンド11、21)への対応が今回のモデルでも見送られてしまったのです。1.5GHz帯ネットワークはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク共に割り当てられていて、とくにドコモとKDDIはこの帯域をLTE方式で構築しているため、両キャリアともこのネットワークを新型iPhoneでも利用したかったというのが本音のところでしょう。

 わが国の通信キャリア各社には、700/800/900MHz、1.5GHz、1.7GHz、2GHz、2.5GHz(いずれも総務省呼称)という各周波数帯が割り当てられており、その限られた帯域の中でLTEおよび3Gのネットワークを構築し、サービス提供を行っています。LTEに関していえば、それぞれの周波数帯ごとに受信で10MHz~20MHzの帯域幅の中で通信を行っています。10MHz幅でLTEでは最大75Mbpsの通信が可能になります。20MHz幅あれば最大150Mbpsです。

 iPhone 6/6 Plusから、複数の周波数帯の電波を同時に利用することで通信速度を向上させることができる「キャリアアグリゲーション」が搭載されました。その上で、6/6 Plusでは受信最大150Mbpsだったものが、6s/6s Plusでは300Mbpsまで向上したわけです。では、各キャリアがどの周波数帯の組み合わせで6s/6s Plusのポテンシャルをどこまで引き出せるかを表にまとめてみました。

各通信事業者別割当周波数帯域と帯域幅。ピンクの部分はiPhone 6s/6s Plusで利用可能な周波数帯域。赤線はキャリアアグリゲーションでの組合せパターン(各種情報をもとに筆者作成)

各通信事業者別割当周波数帯域と帯域幅。ピンクの部分はiPhone 6s/6s Plusで利用可能な周波数帯域。赤線はキャリアアグリゲーションでの組合せパターン(各種情報をもとに筆者作成)

 ご覧の通り、じつはiPhone 6s/6s Plusのスペック(受信最大300Mbps)をフルに発揮できる周波数帯(LTEバンド)の組み合わせができるキャリアはまだありません。この中で、ドコモは1.7GHz帯と2GHz帯の組み合わせで受信最大262.5Mbpsの速度を出せるのが最速です。続いてドコモの800MHz帯と1.7GHz帯の組み合わせと、KDDIの800MHz帯と2GHz帯の組み合わせによる225Mbpsという速度。ただしドコモの1.7GHz帯は東名阪のみのサービス提供となっており、それ以外の地域では800MHz帯と2GHz帯の組み合わせによる187.5Mbpsが最速となり、地方ではKDDIのほうが優位ということになるようです。ちなみにソフトバンクは900MHz帯と2GHz帯の組み合わせで187.5Mbpsが最速です。

 ドコモの場合、東名阪エリアであれば相当な高速通信が期待できるように思えますが、データ通信はユーザー数が多くなればその分通信速度が落ちていきます。当然東名阪エリアはユーザー数も多い地域ですので、スペック上は地方が不利に見えても、じつは地方のほうが快適に通信できるという実態もあります。理論値に振り回される必要はないでしょう。

3G帯域のLTE移行はいつ?

 このように、端末側は最速300Mbpsのポテンシャルを持っているにも関わらず、ネットワーク側のほうが追いついていない一面があります。たとえば、ドコモの場合、2GHz帯でまだ運用が続いている3G方式の部分を、LTE方式に切り替えられれば、最速300Mbpsの通信速度を出すキャリアアグリゲーションが可能になります。

 ならば、さっさと3G方式をLTE方式にしてしまえばいいのにと考えるかもしれませんが、そう簡単に通信方式を切り替えられない事情もあります。まず3G方式にしか対応していない端末を利用するユーザーが居る限り、3G方式の電波を止めるわけには行きません。またLTE方式は、もともとデータ通信専用の通信技術のため、音声通話をする際は3Gに切り替えて通話を行う必要があります。LTE方式のネットワークで音声通話を行う「VoLTE」という技術が考案され、昨年以降発売のスマートフォン等には搭載されていますが、VoLTE非対応の端末もまだまだたくさんあります。それら3GやVoLTE非対応の端末を持つユーザーがすべて最新のLTE端末に買い換えてもらわない限り、3G方式を廃止するわけにはいかないのです。

 また仮に日本のユーザーの端末がすべてVoLTE対応の端末に買い替えが進んだとしても、海外から来日するユーザーの端末が非対応というケースが考えられます。訪日客は国際ローミングによって日本の通信ネットワークを利用することになりますが、そうしたユーザーをないがしろにするわけにはいきません。とくに2020年には東京オリンピックが控えており、世界中から訪日客を迎えることになります。その際に、訪日客自身の端末が通話できないというような事態はおもてなしの国として避けなくてはなりません。

 ちなみに世界標準の3G方式の周波数帯は2GHzです。ですので、ドコモとしても、2GHz帯の3G方式は2020年以降も当面継続させなくてはならないということになります。これはソフトバンクも同様でしょう。(KDDIの場合、3G方式が他のキャリアとは異なるCDMA2000方式でしたので、国際ローミング客受入も限定的であったため、潔く2GHz帯はLTEにしてしまったのでしょう)

 そのようなわけで、国内の各キャリアの周波数割当を見る限り、iPhone 6s/6s Plusの通信速度のスペックをフルに活用できるようになるには、まだ時間が掛りそうですね。

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー
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