広告クリックで通信費無料、香港MVNOのビジネスモデルは広がるか?|山根康宏のワールドモバイルレポート

公開日: : 最終更新日:2015/08/20 モバイル研究家コラム, 山根康宏のワールドモバイルレポート ,

香港のMVNOが面白いサービスを開始した。香港を訪れる旅行者向けのプリペイドSIM『i-Sim』は広告をクリックするだけで無料通話分・データ利用分を獲得できる完全無料サービスだ。

SIMも無料、通話料も無料で香港を楽しめる

香港のMVNO事業者であるGreen-i Sim Motionがサービスを始めたi-Simは香港を訪れる観光客をターゲットにしている。SIMカードは香港空港や市内のホテル、旅行代理店などで無料配布されており、パスポートさえ提示すれば誰もが入手することができる。なお不正利用(転売など)を防止するため1パスポートあたり年間4枚までの配布となっている。

SIMは毎日数百枚が先着順で配布されるが、香港空港で受け取りの場合は事前にアプリからの予約が可能だ。確実に入手したいと考えている旅行者のこともしっかりと考えているのである。SIMは利用開始時に簡単なユーザー登録が必要だが、FacebookなどのSNSアカウントでの登録も可能なので難しくは無い。空港のカウンターでSIMを受け取りスマートフォンに装着、電源を入れアプリを立ち上げれば10分もしないうちに使い始めることができるだろう。

さてこのi-Simは最初に50ユニットの無料通信料が含まれている。1ユニットは1分の音声通話または1MBのデータ利用分となる。たとえば通話20分とデータ30MB、あるいはデータ通信だけ50MBといった使い方ができるのである。しかもこの50ユニットを使い切ってしまっても、アプリ内の広告をクリックすれば無料利用分を増やすことができるのだ。

広告は1クリック当たり5または10ユニットの無料利用分が追加される。広告は小売店やマッサージ店、レストランなど旅行者にとって有用なものばかりが表示される。またGPS情報を元に、付近にあるショッピングモール内の店やレストランの広告も表示される。

完全無料のプリペイドSIM『i-Sim』

完全無料のプリペイドSIM『i-Sim』

アプリ内の広告クリックで無料利用分をゲットできる

アプリ内の広告クリックで無料利用分をゲットできる

香港内で観光ガイド代わりに使うこともできるだろうし、地下鉄やバスで移動中の暇つぶしにお店を探してみる、といったこともできる。旅行者に絞ったサービスだからこそ、広告もそのターゲットユーザーにとって有用なものが多く表示される。広告を出す側にとっても、出した広告をクリックしてもらえる確率が高いわけだ。

なお無料通信分は無制限に追加できるものの、最大の上限は150ユニットまでとなっている。例えばデータ通信しかしない場合、広告をたくさんクリックしても最大150MBぶんまでしか無料利用分を貯められないのだ。しかしデータ通信を使い続けて残りが10数MBになったなら、再び広告をクリックすれば150MBぶんまで貯めることができる。一般的な使い方なら150MBを一気に使い切ることはないだろうし、観光がてらにアプリを開いていれば知らず知らずのうちに広告をクリックするだろう。スマートフォンのヘビーユーザーならまだしも、観光客であれば150ユニットごとの無料利用分のチャージ方式で困ることはないだろう。

なお有効期限は1週間。その後はSIMは再利用はできず、使い捨てとなる。またより多くの通信をしたいと思っても有償での利用分の追加も不可である。広告クリックで上限150ユニットまでなんどでも利用分を増やせ、1週間たったら使い捨てる。i-Simはとことん割り切ったサービスなのだ。

観光客誘致に効果あり、日本での展開に期待

一般的な広告による無料サービスモデルは、例えば画面上に一定時間広告を表示する、といったものがある。だがこのモデルはスマートフォンには向いていないだろう。画面が狭いため広告を表示しても目につきにくいし、広告を大きくすれば邪魔な存在となり不快感を与えてしまう。また広告を表示するためにデータ通信も発生してしまう。

ところがこのi-Simのモデルであれば、広告は実際の旅行中に有用な情報が多いし、その広告をクリックすれば無料利用分を獲得できる。しかも自分の興味ある広告ばかりが表示される。利用者はこぞって広告をクリックするだろう。

またたまたま降りた駅でレストランを探すとき、ガイドブックを持っていなくてもこのi-Simのアプリだけでも十分役に立つ。なにしろ旅行者向けのSIMサービスに広告を出すようなレストランであれば、当然外国人の観光客が来ることを考えているわけだ。知らない土地へガイドブック無しで出かけても、i-Simのようなサービスがあれば安心してお店を回ることもできるかもしれない。

広告は観光客に有益なモノばかり。ちょっとした観光ガイドも提供

広告は観光客に有益なモノばかり。ちょっとした観光ガイドも提供

無料利用分残高もワンクリック。アプリを使いながら簡単にチェックできる

無料利用分残高もワンクリック。アプリを使いながら簡単にチェックできる

このように観光客にとっても便利であり、広告を出す側にとっても効果が期待できるi-Simが香港でサービスを開始したのにはいくつかの理由が考えられる。まず香港は都市国家で国土が狭いため観光客が訪問する場所もある程度限られてくる。そのため広告を出してもそれを見た客が店へ足を運びやすい。

また香港はプリペイドSIMが自由に購入できる国として旅行者に認知されている。香港空港に到着したらまずはコンビニでプリペイドSIMを買う、という人は多い。そのため無料SIMがあると告知すれば旅行者たちはすぐさま飛びついてくれるだろう。

そしてプリペイドSIMの販売に際し、香港ではユーザー登録は一切不要だ。そのためプリペイドSIMも通信事業者が自由な形態・サービスの商品を販売できる。なおi-Simはユーザー登録が必要だが、これは香港の法律で決まっているものではなくあくまでもi-Sim側が利用者に対して登録を求めているだけである。

i-Simはまだサービスが始まったばかりだが、今後口コミやSNSでその存在が広がっていくだろう。広告クリックの手間はあれど、無料で使えるメリットは大きい。またアジアで飛行機を乗り継ぐトランジット客も、香港と台北、シンガポールでの乗り継ぎを比較する際に「香港ならスマートフォンが無料で使える」とわかれば、香港トランジットを選ぶかもしれない。

このように無料で利用できるプリペイドSIMを提供すれば、旅慣れた観光客はこぞってそれを利用することだろう。また広告効果が高いとなれば、広告を出す企業も増えていくだろう。日本でも最近になって空港にプリペイドSIMの自販機が設置されるなど、訪日客向けのSIM販売が本格化してきた。魅力的な観光地やお土産そろいの日本だけに、i-Simのような広告による無料SIMが成功する下地はあるかもしれない。ぜひ日本でも同様のサービスが始まってほしいものだ。

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山根 康宏

山根 康宏

香港在住15年。海外展示会取材や海外市場調査のため1年の半分を 海外で過ごす。2003年に前職を退職し同年に携帯電話研究家として独立。 香港を拠点にフリーランスの活動を開始する。消費者目線でのコラムやレポートを執筆する他、 コンサルティング活動も行っている。 週アスPLUS『山根博士の海外モバイル通信』、 ITmedia『山根康宏の中国携帯最新事情』、CNET『中国トンデモケータイ図鑑』など、 メディアでの連載多数。 携帯電話をこよなく愛しており、海外出張時は現地端末やプリペイドSIMを必ず購入、 それらのコレクターでもある。 収集した海外携帯電話の台数は約1300台、SIMカードは約500枚(2014年6月時点)。 株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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