このところヘルスケアIoTが注目される理由|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

いうまでもないことですが、スマートフォンはアプリマーケットにある膨大なアプリを上手に利用することで、スマートフォンを多様な目的に活用できます。アプリのジャンル別シェアでいえば、相変わらずゲーム市場が圧倒的ですが、このところわが国においても「ヘルスケア」分野のアプリやサービスが注目を集め始めています。たとえば、こうしたITを用いたヘルスケア関連情報を取り扱うメディアも急速に増えてきました。以前から取り組んでいたところでは『mHealth Watch』、『Health App Lab』などといった媒体がありましたが、その後大手も続々参入、日経BPは2014年1月より『日経デジタルヘルス』を創刊、ITmediaも続いて『ITmediaヘルスケア』を2015年初旬から創刊しWebを通じたニュースの発信を行っています。

わが国ではあまり注目されなかったヘルスケア系コンテンツ

 昨年、アップルからiOS 8が発表になった際に「HealthKit」というAPIと、iOSネイティブな「ヘルスケア」アプリが登場しましたが、わが国ではそれほど大きなトピックになりませんでした。かつて、ガラケーコンテンツ時代から、「教育系」コンテンツと「ヘルスケア系」コンテンツは、なかなかビジネスラインに乗せるのが難しいと言われてきました。教育系コンテンツについては、ユーザーが「お金を払ってまでケータイで勉強しない」という考え方があったからでしょう。ヘルスケア系コンテンツも同様で、一部ダイエット系コンテンツや、女性向けサービスでは成功を収めているものもありましたが、大半のユーザーは健康管理のために身銭を切ろうとは考えません。

 これは国の政策によるところもあると思います。わが国はご存知の通り義務教育制度や国民皆保険制度が浸透していますので、たとえばヘルスケア系サービスに関していえば、いざ病気になったら一部の自己負担のみで高度な医療を受けることができるので、予防のために身銭を切る必要はなしという認識なのでしょう。一方で、自由保険制度のアメリカなどでは、健康は自分自身で管理する慣習が根付いています。ですので、わが国以上にヘルスケア系コンテンツが一定の人気を博してきました。

 ガラケーからスマホの時代となり、スマホ向けにも様々なヘルスケア系アプリが充実しています。さらにスマホはBluetoothなどの通信を通じてウェアラブルデバイス等と通信し、ユーザーの活動量やバイタルデータの収集も簡単にできるようになってきました。いわゆる「ヘルスケアIoT(IoT=Internet of Things、モノのインターネット)」です。すでに多数のサービスや機器が提供されています。

 自身の健康のためと言っても、前述のように日米ではユーザーの温度差があり、わが国ではなかなか使ってみようというユーザーは多くはありませんでした。サービス提供される各社は、まずはこうした「ヘルスケアIoT」に馴染みやすいジャンルとして、スポーツ分野での活用から浸透させることを試みてきました。活動量から導き出される消費カロリーや、位置情報を使ったランニング経路の記録などです。最近ではようやく睡眠時などにリストバンド型ウェアラブルデバイスなどを用いて「睡眠の深さや質」などの記録をするユーザーも徐々に増えてきたようです。

ヘルスケアサービスが急に注目され始めた理由

 じつは筆者はこうしたヘルスケア分野にITを応用する研究者が集まるITヘルスケア学会で理事を務めさせていただいてます。毎年1回、研究者等が参集し、研究成果を発表する学術大会というものが開催されますが、今年の大会ではとくにこうしたユーザーのバイタルデータの収集と分析にポイントを置いた成果発表が多数見受けられました。

 これは、Apple Watchを含むスマホと連携するヘルスケアIoT機器が一段と充実してきたことももちろんありますが、もうひとつ大きな理由があるのです。じつは本年12月から施行される改正労働安全衛生法の中に、50名以上の事業所について全従業員への「ストレスチェック実施」が義務付けられることになったのです。この法改正により、企業は労働者の心理的負担の程度を把握し、このチェックの結果必要な場合は作業の転換や労働時間の短縮、その他の適切な就業上の措置を講じなくてはならなくなりました。(図1)

(図1)改正労働安全衛生法の改正内容のうち、ストレスチェック制度創設に関する概要(厚生労働省公表資料より)

(図1)改正労働安全衛生法の改正内容のうち、ストレスチェック制度創設に関する概要(厚生労働省公表資料より)

 2013年に、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが東京海上日動メディカルサービス株式会社と共同で提供しているメンタルヘルス対策プログラムを分析した結果、なんと最もストレスレベル要注意割合が多い業種はIT・通信業界で、16%にも上るそうです。この改正労働安全衛生法が施行されたら、下手をすれば従業員の16%もの人たちが配置換えや労働時間短縮を迫られることになりかねません。これは企業にとっても大打撃、下手をすれば事業の継続にも影響を与えかねない大問題です。

 じつはこうした事情もあって、このところ急速に従業員の健康状態、とくにメンタルヘルスに対する日常からの管理方法が模索されるようになり、その手段としてスマホのアプリや、スマホと連携させて利用するウェアラブルバイタルセンサーの利活用が脚光を浴びてきたのです。バイタルセンサーを通じて、日常のストレス度合いを計測し、それを日頃から把握して行こうということになっていくのでしょう。たとえばリストバンド型バイタルセンサーでは睡眠の状態などは計測できますが、それだけでは必ずしも十分とはいえません。今後ストレスチェックとして期待されている計測手段は、活動量や睡眠等に加え、心拍の収集なども注目されていきそうで、これらを総合的に評価し、ストレス度合いを管理していくということになるのでしょう。さらに新たなストレス計測手法が考案されていくかもしれません。

 まあ言ってみれば、これまでわが国ではビジネスにならないと言われてきたヘルスケアコンテンツ市場ですが、ここに来てビッグチャンスが訪れるのかもしれませんね。しかし、それによって労働過多になって体調を崩すIT業界関係者が増えないことを祈りたいところですが…。

筆者もバイタルセンサー系デバイスはあれこれ試していますが、決して「ダイエット」には結びついていないようです(笑)

筆者もバイタルセンサー系デバイスはあれこれ試していますが、決して「ダイエット」には結びついていないようです(笑)

※下記の記事でヘルスケアIoT事例についてまとめております!(2016/11/2編集部追記)
【IoT事例】ヘルスケア分野のIoT活用事例12選!

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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