ついに動き出した「技適」に関する規制緩和|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

以前、このPOSTCO「池端隆司のモバイルジャンクション」にて、池端さんと「技適」について対談した記事が掲載されました。

木暮さんから学ぶ、技適のこと~その1~|池端隆司のモバイルジャンクション
木暮さんから学ぶ、技適のこと~その2~|池端隆司のモバイルジャンクション

この記事の中で、技適を巡る課題などについて語りました。わが国では、2020年に向け今後一段と増えていくであろう、来日観光客に対するシームレスなネットワーク環境の提供が提言されている一方で、電波法の「技適」に関する事項に引っかかり、下手をすれば来日観光客が日本の法令に違反した状態となっている現況と、こうしたサービス提供環境において法の見直しが必要という話をしました。

その「技適」を巡る法改正がいよいよ動き始めています。

何が問題だったのか?

 日本の電気通信事業法には「電話機、FAX、モデム等の端末機器を電気通信事業者(=通信会社)のネットワーク(電気通信回線設備)に接続し使用する場合に、その利用者は、電気通信事業者の接続の検査を受け、当該端末機器が電気通信事業法に基づく技術基準に適合していることを確認する必要がある」とされています。しかしこれには除外規定が設けられており、「登録認定機関から技術基準に適合していることの認定を受けるなどして総務省令で定める表示(技適マーク)が付された機器を接続する場合には、当該端末機器の利用者は、電気通信事業者による接続の検査を受けることなく接続し使用することができる。(電気通信事業法第69条)」と定められています。

 また、電波法においても、電波を発する無線設備は1台1台に「無線免許」が必要なのですが、あらかじめ検査を受け日本の電波基準を満たしていると認定された無線設備に「技適」が与えられ、個別に無線免許を取得しなくとも利用できるものとしています。携帯電話や、Wi-Fi、Bluetooth機器にもこの法律が適用されます。

 わが国では長らく、通信事業者自身が携帯電話を用意し、回線契約と共にユーザーに提供するというスタイルを取ってきましたので、ユーザーは「技適」というものを意識することも無かったのですが、時代は変わり、第三世代携帯電話(3G)以降は国際ローミングも本格的にスタートし、日本で購入、契約した携帯電話端末を海外で利用することが可能になったと同時に、海外で販売される携帯電話端末を日本に持ち込んで利用するという使い方も可能になりました。あるいは、海外のユーザーが来日し、日本で利用するというシチュエーションも出てきたのです。当然のことながら、海外で販売されている端末には、わざわざ日本の「技適」を通しているものはほとんどありません。となると、これらの端末を日本国内で利用した場合、電波法違反となり、「懲役1年以下、もしくは100万円の罰金」に処させる場合があるのです。

 ちなみに来日観光客向けには緩和措置が設けられ、携帯電話の国内ローミング利用に関して「電波法103条の5」1が定められ、国内の通信事業者があらかじめ届出を行うことで国際ローミングで受入する場合に限り「合法」とさせています。一方で、海外で販売される携帯電話を現地で入手するなり、並行輸入するなどして、日本のユーザーが国内に持ち込んで、国内の通信事業者のSIMカードで利用すると「電波法103条の5」の国際ローミングには当らず、違法となってしまいます。

 さらにスマートフォンが主流となった昨今、スマートフォンは携帯電話ネットワークの電波のほかに、Wi-FiやBluetoothの電波も発します。来日観光客が持ち込んだ端末の大半は「技適」が無いものと思われ、国際ローミングで携帯電話ネットワークを利用するのは良しとしても、Wi-FiやBluetoothの電波を出すと現行法では違法になってしまいます。

 その一方で、総務省は「2020年に向け増加していくであろう来日観光客の日本国内での通信機器の利便性向上を図る」必要があるとして、2014年6月には来日観光客に先進的なICT環境を提供するためのアクションプラン「SAQ2(サクサク) JAPAN Project」を公表するなど、観光地における「無料Wi-Fiの整備促進と利用円滑化」や、「国内発行SIMへの差替え等によるスマートフォン・携帯電話利用の円滑化」などを実現させていくとしています。こうしたアクションプランを受けて、世界的に知られる観光地を抱える自治体では積極的に無料Wi-Fiを整備したり、あるいは関西国際空港などに来日観光客向けのMVNO SIMの自販機が設置されるなどしています。しかしながら、技適の無い端末で国内の無料Wi-Fiを使ったり、あるいはMVNOのSIM(すなわち国際ローミングとはならない事業者)を使うことは違法行為になってしまいます。
ちょっと話が矛盾しますよね。

ようやく法改正に動きが出てきた!

 「技適」が無いといっても、少なくともそれぞれの端末の製造国や、米国、欧州などの基準で安全性が確認されている端末ですから、一概にそれらがすべて日本の電波環境に悪影響を及ぼす「危険」なものととらえる必要はないと思います。
となれば、あとはどう法規制を緩和させるかという点でしょう。

 そんな中で、いよいよ法の見直しに関する動きが出てきました。現在開期中の第189回通常国会に、いよいよ総務省から「電気通信事業法等の一部を改正する法律案」の審議が提出されました。本稿執筆時点(4月21日)現在、まだ衆議院を通過していませんが、おそらく「技適」に関わる部分は問題なく審議が進むものと思われます。

 この改正法律案の中で、「技適」に関わる内容をピックアップすると、まず「電波法第4条」に新たに2項が追加されました2。すなわち、一時的に来日する観光客等の端末に技適が無くても、入国の日から同日以後90日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日までの間に限り「技適がある端末と同一とみなす」ということ。つまり、現在では違法となっていた来日観光客が国内通信事業者(MVNO等)のSIMを利用することや、Wi-Fi等のスポットを利用することが、限られた日数の範囲で、合法化するということになります。

 さらに改正案では、国内におけるスマートフォン等の端末販売事業者にも言及し3、「技術基準に適合しない無線設備を製造し、輸入し、又は販売することのないように努めなければならない。」としています。まだ“努力義務”ということのようですが、「技適」の無い端末を堂々と販売することに規制をかける狙いがあるようです。世界では、一般的に自国で販売する端末は、自国の法令に適合した端末を販売するのが筋で、こうした電波に絡む法律の多くは個人よりも販売者に対する罰則というケースが大半でした。しかしながら、わが国では、これまで販売には規制はなく、利用するユーザーが罰せられるという状況にありました。今後は販売側にも目を光らせていくということなのでしょう。

 社会環境が変われば、それに合わせて法律の見直しも必要になってきます。2020年というのは、日本が世界に注目され、数多くの来日観光客が訪れるタイミングです。スマートフォンの利用がもはや当たり前となり、さらに利用環境も容易に国境を越えることが茶飯事となった現代において、その法の運用についても見直しが必要となるタイミングが来たということでしょう。

 しかしながら改正法の内容を見る限り、あくまで「来日観光客」向けの規制緩和でしかありません。たとえば筆者が、海外の魅力的なスマートフォンを個人輸入して日本で使おうとした場合、一時的な滞在者なら許されても、日本人であり、日本に本拠がある上では適法になりません。国内の端末メーカーを保護するという観点から当然の措置とも言えそうですが、国内未発売のスマートフォンやウェアラブル端末を「検証」を目的に利用したいといったニーズだってあるはずです。こうした国内の消費者や開発者、研究者等のニーズは残念ながら盛り込まれませんでした。これが少々残念です。

 参考までに韓国の技術基準認定を行っている韓国国立電波研究院のWebサイトを見てみましょう(図1)。韓国も日本同様に電波に関して厳しい基準を持ち、法規制を行っている国ですが、このWebページの中央に韓国版技適の適用除外規定が説明されています(図2)。Google日本語翻訳したものが図3ですが、アンダーラインの入れた部分にあるとおり、「販売を目的とせず、個人が使用するために搬入する機材」については1台に限り技適が無くても良いという規定があるのです。法規を遵守することはとても重要ですが、韓国のこの寛容さはちょっとうらやましいなと思いました。

■(図1)韓国の無線に関する認証機関である国立電波研究院の韓国版技適に関する説明のページ(http://rra.go.kr/license/about.jsp

(図1)韓国の無線に関する認証機関である国立電波研究院の韓国版技適に関する説明のページ

■(図2)このページの中央部分に、技適の除外規定が説明されています

(図2)このページの中央部分に、技適の除外規定が説明されています

■(図3)該当部分を日本語翻訳したものです

(図3)該当部分を日本語翻訳したものです


  1. (特定無線局と通信の相手方を同じくする外国の無線局)
    第百三条の五  第一号包括免許人は、第二章、第三章及び第四章の規定にかかわらず、総務大臣の許可を受けて、本邦内においてその包括免許に係る特定無線局と通信の相手方を同じくし、当該通信の相手方である無線局からの電波を受けることによって自動的に選択される周波数の電波のみを発射する外国の無線局を運用することができる。 

  2. 電波法 第4条 (2項及び3項を追加)
    ※4月21日現在、国会で改正案を審議中
    2 本邦に入国する者が、自ら持ち込む無線設備(次章に定める技術基準に相当する技術基準として総務大臣が指定する技術基準に適合しているものに限る。)を使用して無線局(前項第三号の総務省令で定める無線局のうち、用途及び周波数を勘案して総務省令で定めるものに限る。)を開設しようとするときは、当該無線設備は、適合表示無線設備でない場合であつても、同号の規定の適用については、当該者の入国の日から同日以後九十日を超えない範囲内で総務省令で定める期間を経過する日までの間に限り、適合表示無線設備とみなす。この場合において、当該無線設備については、同章の規定は、適用しない。
    3 前項の規定による技術基準の指定は、告示をもつて行わなければならない。 

  3. (基準不適合設備に関する勧告等)
    ※4月21日現在、国会で改正案を審議中
    第百二条の十一 無線設備の製造業者、輸入業者又は販売業者は、無線通信の秩序の維持に資するため、第三章に定める技術基準に適合しない無線設備を製造し、輸入し、又は販売することのないように努めなければならな。 

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木暮祐一
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、携帯電話関連媒体の立ち上げや執筆などに携わる。2000年にはアスキーで携帯電話情報ニュースサイトを立ち上げ編集長を務めた。ケイ・ラボラトリー(現、KLab)を経て2009年に大学教員に転身。2013年より青森公立大学経営経済学部准教授。黎明期からの携帯電話端末コレクションも保有し、その数は1000台以上。株式会社ウェブレッジ社外アドバイザー

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