Samsungの反撃体制がようやく整ったMWC2015|山根康宏のワールドモバイルレポート
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最終更新日:2015/04/02
モバイル研究家コラム, 山根康宏のワールドモバイルレポート
モバイル, 海外
世界最大のモバイル関連イベントである「Mobile World Congress 2015(MWC2015)」が3月2日から5日まで、スペインで開催された。世界中から9万人の来訪者を集めたMWC2015は、今年のモバイル業界の動向を見るのにも最適なイベントである。端末メーカーもMWC2015に合わせて新機種を発表するのが毎年恒例のことだ。
真のフラッグシップモデルを投入したSamsung
各社の新製品の中で一番の話題を集めていたのがSamsung。最近のSamsungはハイエンド、ミドルレンジ、エントリーとすべての製品で他社との競合が激しくなっており販売台数も下落が続いている。MWC2015では新型モデルを発表し反撃に出ると見られていたが、その新モデルは期待通りのフラッグシップ製品となった。
MWC2015で発表された製品はGalaxy S6とGalaxy S6 edgeの2機種。どちらも64ビット対応の高速CPUや高速通信のLTE Cat.6対応、高解像度ディスプレイに大容量メモリ搭載などハイスペックに満ち溢れた製品である。しかもS6 edgeは側面を落とした曲面ディスプレイを採用したことで今までのスマートフォンには無いデザインを提供、しかも本体を持ちやすくしている。またこれら機能向上だけではなく、急速充電やワイヤレス充電に対応するなど使いやすさも大きく向上した。
だが両モデルの魅力は実はそれだけではない。本体は背面もゴリラガラスで覆い、その下には特殊なカラーフィルムを配置することで端末を見る方向からその色合いが様々に変化する。そして側面とフレームは金属素材を採用。高級感のあるプレミアムな製品に仕上がっているのだ。高性能モデルとなったGalaxy S6両機種はSIMフリーで10万円近い価格となるだろうが、その価格に見合っただけの高品質な製品と言える。
今までのSamsungのスマートフォン上位モデルは確かに高機能だった。しかし本体はプラスチック素材を多用し金属モールド調の素材を側面に採用などしていたがiPhoneやXperia上位モデルに比べ質感で劣っていた点は否めない。Galaxy S6とS6 edgeは外見・質感もようやく「本物」と呼べる製品になったと言えるだろう。
100種類の製品を一気に統廃合
しかしこのS6新製品だけで他社との競争を勝ち抜いていくのは難しい。日本ではSamsungはハイエンドスマートフォンメーカーと言う印象があるが、実は同社が世界シェア1位を維持しているのはハイエンドからミドルレンジ、そしてエントリーモデルまで広げている豊富な製品ラインナップだ。Samsungは今回のGalaxy S6とS6 edgeの投入で、下位の新シリーズの位置づけもはっきりと明確なものにした。これまで年間100機種ちかくを出していたラインナップの統廃合も一気に進める予定だ。
SamsungといえばGalaxyブランド。日本ではそれは「Galaxy Sシリーズ」と思われているだろう。だが東南アジアなどではミドルレンジやエントリーモデルも多数のラインナップが提供されており、Galaxy S以外のモデルのほうが圧倒的に多い。その一例を見てみると、
- Galaxy Max
- Galaxy Pocket
- Galaxy Grand
- Galaxy Ace
- Galaxy Star
- Galaxy Core
- Galaxy Young
- Galaxy Mega
等々だ。しかもそれぞれに「Gland Prime」や「Ace NXT」「Star 2 Plus」のように派生モデルが多数存在する。これら多種多様な製品は消費者個々にぴったりの製品を提供するという点では今まで優位に働いていた。しかし低価格な新興メーカーの製品が昨年あたりから各国で登場し、消費者側も「多少自分の好みに合わなくとも、価格が安いからいいだろう」と、Samsungの個別モデルよりもそれらを選ぶようになっていってしまったのだ。また製品ラインナップの多さは生産コストはもちろんのこと、在庫の面でも不利に働いてしまう。
そこでSamsungはミドルレンジモデルを中心に製品ラインナップの方向転換を行うことにした。MWC2015でも実はSamsungブースで大きく展示されていたのはそれらの製品だ。
まず「Galaxy S」は唯一無二のフラッグシップ製品として、プレミアムかつハイスペックな最上位モデルという位置づけにした。高級感ある外観の高価格モデルとして先進国での販売に注力すると共に、新興国では「あこがれの端末」という位置づけも担う。
その下には「Galaxy A」と「Galaxy E」の2つのモデルが位置する。この両モデルは2014年末から相次いで市場に投入された製品である。Galaxy Aは価格を抑えながら金属ボディーを採用したコストパフォーマンスの高い、ちょっとした高級感を味わえるモデル。一方のGalaxy Eはより価格を抑えた幅広いユーザーに提供する製品となる。
そしてさらには、両モデルとも画面解像度やカメラスペックごとに「A7」「A5」「A3」そして「E7」「E5」「E3」とそれぞれ3つのバリエーションを提供する。従来であれば、これら6種のモデルすべてに異なる愛称が付けられていたが、2015年からは「A」「E」と2つのラインに集約し、しかも数字が大きいほどハイエンド、とわかりやすいラインナップになる。
これで消費者もSamsungのショップに行けば製品名を見るだけでだいたいの機能やスペック、価格がわかるようになる。しかも店の中央にGalaxy S6が置いてあれば「いつかはこれが欲しい」と、Samsung製品全体にあこがれるようになるだろう。Samsungはこの他にも日本でも発売されている「Galaxy Note」シリーズを有しており、海外で人気のファブレットもカバーしている。
圧倒的なブランド力と使いやすさを武器に少数モデルで先進国を中心にシェアを高めているAppleと、圧倒的な低価格で攻勢をかける新興メーカー。この2つの流れにSamsungが対抗していくためには、あらゆる層をカバーする圧倒的な製品数を今後も出し続けていかねばならないだろう。だが今までのSamsungは動きの速さが裏目に出て、その場しのぎともいえる製品乱発が相次いでしまった。
S/A/E/Noteと製品ポートフォリオをすっきりとさせ、個々の製品が明確なポジションやターゲットを持った今、Samsungのスマートフォン事業はようやく反撃に出れる体制が整ったと言える。あとはアジアを中心に数が増えている、100ドルを切る「超低価格スマートフォン」にどう対抗していくのか、エントリーモデルの製品展開にも注目したいものだ。

山根 康宏

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