木暮さんから学ぶ、技適のこと~その1~|池端隆司のモバイルジャンクション

池端隆司×木暮祐一

こんにちは、池端です。

携帯電話研究家同士のディープな対談シリーズ。第二弾は、いつも知見にあふれた精緻なレビューをポストコラボに寄稿して頂いている木暮祐一さんを迎え、存分に語っていただきました。木暮さんがモバイルウォッチャーとして始動したのが、80年代ということですから、いわばモバイル業界の生き字引!私がワンワードを投げると、千本ノックのように木暮さんから球が返ってくる…若干私の言葉数が少なめに見えるのはそういう訳です。話は、経済紙やビジネス誌でもバズワードとなりつつ「技適(技術適合証明)」についての考察からスタートしました。

スマホ・タブレットは現行の法解釈上は無線機なんです…

池端隆司:(以下、池端)今日は聞きたいことが一杯ありますので、よろしくお願いします。

木暮祐一:(以下、木暮)やけに畏まりますね(笑)。はい、こちらこそよろしくお願い致します。

池端:先日、木暮さんがグーグルグラスの記事を書くのに韓国に行かれたと聞いております。記憶違いでしたらご指摘頂きたいのですが、日本国外に住んでる人が、日本に来て自国の端末を使うのは、現状では違法なのですか?

木暮:ええ、違法です。でもそうならないように除外規定があって。ローミングで携帯電話のネットワークを使うことに関してはOKなんです。

池端:ということは…「海外のSIMカードで国内キャリアを使う」ことは合法で国内キャリアのSIMカードを使う場合は違法ということですか?

木暮:そうです。それは、携帯電話のネットワークを利用する際に、受け側となるドコモ・au・ソフトバンクなどのキャリアが、海外からのお客さん向けにローミングを提供してあげるよという、除外規定みたいなものを一部申請して、合法的に利用できるようにしてるんですね。

池端:その場合の端末は、国内の端末ではなく海外の技適を通ってない端末でも大丈夫なんですよね。逆にローミングを使わないで国内で使う…例えばWi-Fiでとか、そういう場合はどうなりますか?

木暮:ここが微妙で、Wi-Fiに接続してしまうと違法なんです。Wi-FiとかBluetoothは原則としてOFFにしておかないといけない。しかしそんなことは実際行われてないわけですよね。もっと不思議なのは、海外からのお客さんが「ローミングだと料金が高い」ということで、日本のプリペイドSIMを購入して持ってきた端末に入れると、これも電波法違反になる可能性があります。

池端:ややこしい上に、利用者にとって非常に不便だと率直に感じます。

木暮:おっしゃる通りです。国際ローミングはOKなのに、技適のない端末を日本国内で日本のSIMカードで使おうとすると違法になってしまう、と。そのあたりの根拠となる法律(特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則)の解釈では、携帯やスマートホンもすべて「無線機」という位置づけなのです。国内で使う無線機に関しては技適が全て必要という判断なのです。つまり一台一台の端末が検定で合格している必要がある。もしくは型式認定というんですけど、同じものを製造するのであればやはり同じように検査を受けて、日本の基準に合ってるかどうかを確認して、確認していないものは違法、という法律上はそういう判断になるんです。

池端:Wi-Fiも格安SIMも使っちゃダメだなんて…

木暮:ここ、青森でも外国客船がしょっちゅう来ますので、そうすると港の近くの商店街なんかはフリースポットを設置してあって、外国人が利用できるように英語で書いてある。これに関しても、いわゆる日本の技適を通った端末以外は違法無線局になりますよ、というのが総務省の解釈です。せっかく外国人のお客様にそういったサービスを提供したいのに「合法的にはできない。どうしたらいいものなのかな」というご相談を自治体等からも結構受けるのですが、現状の法律では難しいですね。

現行解釈のままだと、外国からの観光客は全員逮捕!?

池端:オリンピックに向けて、海外から来る外国人に対しては(通信端末の)持ち込みと使用を緩和する(2015年から)、というニュースが出ていましたが、その件に関してはどう思われますか?

木暮:今の法解釈のままだと2020年に東京でオリンピックを開催して、おそらく日本にいらっしゃる外国からの観光客が端末を持ち込んで接続したら全て違法。みんな逮捕されてしまいます(笑)。「そんなばかな話があるか」ということで、やはり外国からのお客さんに対してどういうふうに対応するかというのは、国としても考えないといけない時期に来ました。総務省は6月に訪日外国人のICT利用環境整備に向けたアクションプラン「SAQ2(サクサク) JAPAN Project」を公表し、今後関係省庁や機関、団体、事業者等と連携して規制の緩和や法改正なども視野に入れた改革をやっていく予定です。今までは原則自国内の機器だけが対象で、電波に関しては基本的にその中でやっていれば良いという考えでしたが、国境を超えてユーザーが相互に行き来する国際化社会の到来までは考慮されていなかった。ようやく法制度も国際的な視野に立って見直されることを期待したいですね。

池端:端末自体も島国ですからね。「ガラパゴス」と言われて。それが今スマートフォンになって、いろんな国から端末が市場に入ってきて。考え方もどんどん変わってきて。

木暮:この問題は随分と前から私はコミットしています。ご存じない方が多いと思うんですけどイリジウムっていう衛星電話サービスが98年に始まったんですけど、お客さん(加入者)が全然集まりませんでした。全世界サービスだったのですが、2000年3月に一度破綻します。そののち、2001年春にアメリカ本国のイリジウムが、ボーイング系の資本が入って、再度サービス提供を開始したんですよ。で、私の場合、日本イリジウムから、日本でちゃんと技適を取った端末を購入していました。日本法人はつぶれていたので、その後全然話題にもならなかったのですが、端末があるんで、SIMカードだけ現地アメリカで調達して、入れて、日本で電源入れますよね。ちゃんと使えるわけです。ところが当時、アメリカで提供していた会社に「日本で使っていいか」と訊くと「非常に微妙な問題だ」と言う話になりまして。やはり法律で、こういった外国からの持ち込み端末を禁止している国が当時いくつかありまして。そのときは北スリランカ、北アイルランド、北朝鮮、そして日本(笑)。「使ってはいけない?日本は北朝鮮と一緒なのか?」と耳を疑いました。一度は技適を取得した端末であるにも関わらずですよ。何故ダメなのかと訊くと、「技適を申請した日本イリジウムという会社は倒産してもう存在していない。だからもう無効だ」と。

池端:お役所らしい解釈ですね。ちなみに衛星も電波なんですか?

木暮:衛星の電波を使いますが、これ自体は無線機なので、電波を発する以上、無線局という扱いになります。近年スマホになってまた再浮上してきました。スマホは3Gとかの携帯ネットワークだけじゃなくてWi-FiやBluetoothが標準装備なので、なおさら面倒なことになっていますね。もともと総務省が定義した違法無線局って、改造トラック無線など電波出力をすごく高くして遠くまで飛ばせるようにして、周囲のクルマラジオにヘンなノイズが入るなど、他の無線サービスに影響を与えてしまう迷惑をかける使い方をするユーザーを取り締まるための法律。あるいは無線機を勝手に作って電波を飛ばす人たちを規制するための法律でした。携帯端末は想定外だった頃でしたから。

池端:海賊放送とか…はるか昔の話ですよね。

木暮:少なくともWi-FiやBluetoothは世界的な規格です。海外でそれぞれの国で認定検定というのは当然ありますし、それをお互いの国で融通しあえば、たとえばヨーロッパで認定を受けているものは日本でも使える、というぐらいの柔軟性があってもいいと思うのです。同じWi-Fiと言っても対応周波数や出力の基準が国によっては多少異なるケースもあり、日本だけはとくに厳しく、日本の基準に適合しているかを確認するため、独自の認定・検定を通さないと違法だということになってしまっています。スマホなどで使われるWi-FiやBluetoothは他に影響与えるほどのものではない決して大きな電波を出す機器ではありまんが、電源を入れると違法ということになってしまう。

グーグルグラスが一番分かりやすいですけど、あれはBluetoothとWi-Fiが入っている。それをスマホと接続して繋ぐ。しかし電波を出す以上違法無線局になってしまう=使うのはNG。日本の認定検定は実は4月に通っていたんですけど・・がっかりですよね。韓国まで行って、さらに臨時の実験免許まで取得して意地でも使うぞと思って、頑張って役所まで足を運んでいたんですが、フタを開けてみるともう認定が通っていて。で、認定取ってればいいってわけじゃなくて、認定を取っていれば端末個別に技適の番号が発行されるのですが、それが本体に物理的に刻印されるか、電子的に表示されてなきゃいけない。

池端:製造時期が違うと全部違うということですか?

木暮:製造時期は一緒。その端末が認定を取っているので問題はないんですが、役所が突っ込むのはその明示方法。必ずこういったスマホには、分解すると裏側に番号が入っているんですが、「その表示がなければダメ」と言うんです。

池端:iPhoneみたいな刻印じゃなく?

木暮:民主党政権の時に、市場にもっと柔軟に対応させるために画面の中に電磁的に表示するのもアリにしたんですね。そのおかげで、アップデートでおそらく表示されるようになると思います。現時点では表示されていないので違法ということになってしまいます。「じゃぁテプラで貼っちゃいけないのか?」と訊いたら、「それは認定の偽造にあたるので50万以下の罰金」(笑)。ちゃんと認定検定の番号があって総務省のホームページに掲載されてるのに。じゃぁそれを自分でテプラで打って貼っとけばいいじゃないか、というと。「それは第3者が貼ってはいけないことになっていて、勝手な偽装になるので、電波法のどこかの規定で50万以下の罰金」と。池端さんの電子書籍でおっしゃっていた通り「全然ウェルカムじゃない国なんだ」と実感しました。

池端:あの記事の裏で、そんな所轄官庁との戦い、ご苦労があったとは!大変でしたね。

木暮:結構大変でしたね。でも良かったこともありました。苦労の甲斐あってか、話題になりまして。「そこまでしてレビューしている人がいて、日本の法律はどうなんだ?」と各方面で影響力のある方々に記事を取り上げて頂き、議論が巻き起こっていたみたいです。私としては、それが手応えでしたね。 

池端:国内の国際空港、あそこって法律適用外?

木暮:一応、国外という扱いみたいです。グーグル・グラスといえば後日談がありまして、この間運良くアメリカ大使館で、グーグルグラスの話をしてくれと言われて行ったんですが、ゲートで全部没収されました。「電子製品は全部没収」と。「今日この機器のお話をしに来たんですけど」「ダメ」って(笑)電池が入っているものは全部マズイと。カバンが相当軽くなりました。スマホがごっそり没収されて。もちろん後で返してくれますけど。日本国内で基本的に利用できない、と。米軍基地とか大使館内など治外法権エリアに行けばまた別なんでしょうけど。

池端:治外法権って電波の世界にもあるのですね…それにしたってヘンな法律です。ダメといわれても普通に使えるものだし。誰が訴えるのかという話ですよ。ユーザーにも誰にも迷惑かからないのに。

木暮:グーグルグラスはアメリカ基準のものなので、アメリカのWi-Fiって日本のものより若干電波強いらしいですね。コードレス電話機のときもそういう話がありましたけど。確かに「余計な電波を出す」と解釈できなくはないですが、それほど他に悪影響を及ぼさない。むしろ、都心部のモバイルWi-Fiルーター、電源を入れるとそこらじゅうにWi-Fiがどーっと並ぶような状況。あっちのほうがよっぽど混線していて電波的にまずい状況になっていると思うんですけど。

池端:電波が大渋滞していて、目も当てられないと私は思っています。

木暮:あれこそまずい状況だと思います。さすがにココのような山の中だと誰も困らないのですが…

ディープなトークはまだまだ続きます!

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池端 隆司
個人で1,000台以上の携帯端末を保有する弊社の携帯博士。株式会社ウェブレッジに2011年入社し、品質検証事業部の事業部長としてテストチームのマネージメントする他、「携帯電話研究家・品質コンサルタント」として活動。品質管理体制の構築・検証手法の提案、ニアショア・オフショア検証の体制構築提案を実施。そのほか国内、国外の携帯電話市場調査やアプリケーションの企画やアイディアの提案なども行う。 著書に「ディープでギークなスマホ情報―これがスマホ&モバイルの未来だ!?」 (技術評論社 2014年6月)がある。

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